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ひそかな弔い「仙台ホーキング」

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412 views 2014.03.04
一般社団法人ワカツクと河北新報社が主催するインターンシッププログラム「記者と駆けるインターン」。3月5日から春の回が始まるのを前に、昨年8月と10月に参加した学生たちが仙台の中小企業や団体を取材した記事を紹介します。ときに励まし合い、ときにぶつかりながら、チームで協力して取り組んだ“軌跡”をお楽しみに♪

ひそかな弔い

目の前に血の海が広がり、死臭が鼻の奥を刺す。床には無数のウジ虫がうごめき、ハエが飛び交う。「死後数日たった部屋の様子は共通しています。足の踏み場もありません。入る時は覚悟が要り、亡くなった方のことを思わないわけにはいきません」。作業員の菊池哲也さん(43)はそう話す。
 
 菊池さんが勤務する「仙台ホーキング」(仙台市青葉区)は、宮城県内唯一の特殊清掃会社だ。自殺や孤独死の現場で、汚れや臭いなど死の痕跡を消し去り原状回復し、遺品を整理する。創業は2011年2月。及川信一社長(66)は「依頼件数は月に数件。まだまだ知名度が低いです」と話す。
 
 依頼主は遺族や不動産会社など。死が生々しく漂う部屋で、作業員たちはまず線香をたき、静かに手を合わせ、見知らぬ故人に思いをはせる。隣近所への配慮から、悪臭が充満していても窓は全開できない。防護服に身を包み、神経を使いながら淡々と黙々と作業を進める。
 
 ある孤独死の現場で、洗濯機に血に染まった手の跡があった。はい上がろうとしたのか、苦しみもだえたのか…。孤独に死にゆく人の声は誰にも届かなかった。「その痕跡を消してしまったら、(故人が残そうとしたであろう)メッセージさえも消してしまうようで心が重くなった…」と、菊池さんは振り返る。
 

▲遺品整理をしている菊池さん。卒業アルバムや書道の作品、賞状…。故人の生きた証が示されている=仙台市青葉区、仙台ホーキング

 宮城県の自殺・孤独死者数は年間480人(2011年)に上る。県内被災地の仮設住宅では、今夏まで37人が孤独死した。特殊清掃の現場は、人間関係が希薄化している現代社会のひずみを物語っている。及川社長は「誰かが責任を持ってやらなくてはいけない仕事だと考えています」と言う。
 
人知れずこの世を去った人の部屋をひっそりと修復する作業は、死者の弔いでもある。孤独死の場合、遺族が関わりを避けたがるケースが多いという。菊池さんは、自殺の現場に残された遺品を故人の母に手渡した際、心から感謝されたことがある。「ありがとうございます」の言葉に、救われる思いだった。

河北新報社インターンシップC班
久道 潤也(東北学院大学 2年)
塚本 大介(東北大学 3年)
三浦 光(東北学院大学 3年)
菅野 真実(東北学院大学 3年)
※名前をクリックするとその人の個人原稿が見られます。
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この記事を書いた人

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一般社団法人ワカツクと河北新報社が主催するインターンシッププログラム「記者と駆けるインターン」。学生たちがチームを組んで、仙台の中小企業や団体を取材した記事を紹介します。ときに励まし合い、ときにぶつかりながら、チームで協力して取り組んだ“軌跡”をお楽しみに♪