「タンヨ玩具店」お客さんと共に守る
2019年2月から3月にかけて、一般社団法人ワカツクと河北新報が主催した記者インターンシッププログラム「記者と駆けるインターン」。参加学生が執筆した記事を紹介します!
お客さんと共に守る
「準備はいいですか?」店主の声が高々と響く。
2月下旬、始まろうとしていたのは、毎週末に開催されているトレーディングカードのゲーム大会。机を囲んでいるのは、高校生から40代までの男性、約30人。大会開始から1時間もしないうちに、参加者のほとんどが腕まくりをしていた。
大会を主催する「タンヨ玩具店」の店主、丹野秀彦さん(45)。祖父が1947年に創業して以来、家族で店を守ってきた。
専用の複数枚のカードを使って、相手と対戦する「トレーディングカードゲーム(TCG)」。取り扱いを始めたのは、90年代半ば。
秀彦さんの母、敬子さん(70)は「子どもたちが店の前で生き生きと対戦する姿が、大会を始めるきっかけとなった」と当時を懐かしむ。トレーディングカードは、次第に店の主力商品となっていった。
玩具店がTCGの大会を開催するケースは珍しい。タンヨ玩具店では、店独自のルールも用意し、自由でアットホームな雰囲気が市外からも参加者を集める。
TCGの拠点として定評を得る中、2011年3月11日、東日本大震災が発生。店は大規模半壊、店内にあった大半の商品は津波で泥水だらけとなり、売り物にならなくなった。
途方に暮れながら復旧作業を始めると、常連客たちが真っ先に手伝いに来てくれた。「うちはお客さんに恵まれている」。秀彦さんは、思っていた以上にお客さんが店を愛してくれていたことを知った。
「店を続けなくては」。家族で奮闘し、震災から約1か月後、元の店舗の隣で営業を再開した。
「歴史を歩んできた『玩具店』の名を、今後も保ちたい。共に店を守ってくれたお客さんのために」と秀彦さん。
「通信販売や全国チェーンに対抗する厳しさがある」と、個人経営の玩具店を取り巻く課題を挙げる。注目しているのは、近年、塩釜で増加している外国人観光客。台湾からのお客さんに言葉が通じず、悔しい思いをした経験から、中国語を勉強中だ。
お客さんを愛し、お客さんに愛される玩具店として、今後も歴史を紡いでいく。
取材後記
月日の流れは早いもので、インターン終了から約2か月が経とうとしています。班員とともに、冷たい指先を擦り合わせながら、タンヨ玩具店を訪れていた日々が恋しくて仕方がありません。
「常連さんたちが震災後、店の復旧に力を貸してくれた」という話を聞いたとき、光景が目に浮かぶようでした。秀彦さんとお客さんの関係が本当に温かいものだったからです。最近訪れるようになった高校生をはじめ、幼い頃から通い続ける大人まで、多くのお客さんの名前が頭に入っている秀彦さん。何より、名前を覚えていることが当たり前のようになっている姿に感銘を受けました。
「店主をしていてよかったと思うのは、お客さんとのつながりを感じられるときかな」と、秀彦さん。特にうれしかったのは、昔から通っていたお客さんが「玩具関連の会社に就職した」という知らせを聞いたときだそうです。「玩具の魅力が伝わったようで嬉しい」と頰を緩ませながら話す秀彦さんの顔が、今でも忘れられません。将来、私も“心からこの仕事をしていてよかった”と感じられる仕事をしたいと思いました。
大学生3人の拙い取材に、4回もお付き合いいただいた秀彦さん、敬子さんには感謝してもしきれません。また、タンヨ玩具店がいかになくてはならない存在なのかを話してくださった、お客の皆様に心よりお礼申し上げます。
震災を契機に移転したことから、閉店したと思われることもあるといいます。創業70年以上の温かいおもちゃ屋さんは、塩釜の地に残っています。少しでも多くの方に伝わったらうれしいです。
取材協力
文・写真
河北新報社インターンシップ19期A班
上智大学2年 新井 絵梨花(2019年3月当時)
この記事を書いた人
- 一般社団法人ワカツクと河北新報社が主催するインターンシッププログラム「記者と駆けるインターン」。学生たちがチームを組んで、仙台の中小企業や団体を取材した記事を紹介します。ときに励まし合い、ときにぶつかりながら、チームで協力して取り組んだ“軌跡”をお楽しみに♪
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