人に喜ばれる店を目指して 「沼田とうふ店」
2014年9月に一般社団法人ワカツクと河北新報が主催した記者インターンシッププログラム「記者と駆けるインターン」。参加学生が班ごとに取材した記事を紹介します!
人に喜ばれる店を目指して
中に入ると、ほのかに大豆の香りが漂ってきた。
こぢんまりとした店内には水を張ったケースに豆腐がひしめき、陳列棚には手作りの油揚げやがんもどきが並ぶ。
「どれも昔から変わらないおいしさよ」
創業140年の老舗の魅力を、長年店に通う女性は語る。
仙台市太白区の長町一丁目商店街にある沼田とうふ店。
接客を担当する沼田令子さん(58)は製造を担当する夫と2人で店を切り盛りする。
【笑顔で商品の説明をする沼田令子さん】
「涼しくなってきたね」
沼田さんは客と気さくに話す。
素材の風味が強く感じられる自家製豆腐のおいしさと、
沼田さんの人当たりの良さに魅力を感じて「豆腐だけはこの店で」という客は少なくない。
沼田さんは幼いころから、先代である父の仕事を見て育った。
「豆腐屋は単なる商売。家業について深く考えることはなかった」と振り返る。
転機は2011年3月11日に起きた東日本大震災。
流通が断たれて、人々は満足に食事を取ることもできなかった。
先行きの見えない不安も手伝い、「早く再開してほしい」と、常連客らから多くの願いが届いた。
余震の続く中、豆腐作りに火を使う怖さを乗り越えて、10日後に営業を再開。
開店前から20人以上が列を作り、その日用意できた豆腐はあっという間に売り切れた。
「ありがとう」
豆腐を手にした人が、ほっとした表情を浮かべた。
感謝の言葉とその顔は、今も胸に残るという。
「豆腐を売るだけで、こんなに喜んでくれるんだ」
災禍にあって、豆腐が普段の温かな食卓を思い起こさせる存在であることを知った。
大型店などの進出で昔ながらの商店街の人通りはどこも、減少の一途をたどる。
長町一丁目商店街も例外ではない。
特に若者はあまり見かけなくなった。
「食べ歩きできる商品をつくるとか、店先にくつろげる場所を用意するとか。
新しい客を呼び込めないかな。これからも喜ばれる豆腐屋であり続けたいのよ」
災後の気付きを胸に、沼田さんがはにかんだような表情を浮かべた。
宮城大2年 森優
立教大3年 須田理紗子
日本大3年 小松拓也
法政大2年 中山栞莉
この記事を書いた人
- 一般社団法人ワカツクと河北新報社が主催するインターンシッププログラム「記者と駆けるインターン」。学生たちがチームを組んで、仙台の中小企業や団体を取材した記事を紹介します。ときに励まし合い、ときにぶつかりながら、チームで協力して取り組んだ“軌跡”をお楽しみに♪
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