面影を取り戻し 想いを「儀典協会」
2014年8月に一般社団法人ワカツクと河北新報が主催した記者インターンシッププログラム「記者と駆けるインターン」。参加学生が班ごとに取材した記事を紹介します!
面影を取り戻し 想いを
線香の香りが漂う、葬儀場の一室。
遺族が静かに見守っている。
納棺(のうかん)師の白岩淳さん(47)は、遺体をふき清め、白装束を着せる。
ほお紅を薄くのせ、最後に棺(ひつぎ)に納める。
白岩さんは、納棺業務を行う儀典協会(仙台市若林区)に勤めている。
納棺師を志したのは 14年前。
「心からありがとうと言われる仕事をしてみたい」という思いがあった。
社長である熊上泰弘さん(46)と旧知の知人という縁もあり、この世界に足を踏み入れた。
【復元処置の場面を振り返る白岩さん=仙台市若林区の儀典協会】
納棺師の仕事は、遺体を棺に納めることだけではない。
生前の面影を取り戻すために、復元処置を行うことも重要だ。
化粧ののりをよくするためにうぶ毛をそり、変色した顔に化粧を施す。
触れるだけでめくれ、傷つくなど遺体の皮膚は弱々しい。
「かみそりを使いこなすのに、10年かかりましたね」と白岩さんは話す。
高度な技術が必要だ。
対応力も求められる。
納棺師は、初めて会う故人にその場で対応しなければならない。
一人として同じ状態にはなく、ましてや事前に準備をすることもできない。
東日本大震災では、葬儀社や遺族、警察から多くの依頼があった。
同社で働く6人の納棺師全員が3カ月間休みなく被災地をかけ回った。
白岩さんが一番心に残っているのは、津波によって石巻で亡くなった妊婦の納棺だ。
腐敗は顔まで広がり、普段は行う遺族の立ち合いを見送った。
一人で遺体と向き合った。
新しい命を抱えて亡くなった妻の悔しさ、愛する2人の家族を一度に失った夫の悲しさが胸に迫る。
「せめて元に戻った姿で最後の別れを迎えてほしい」という想いが白岩さんの手を動かした。
処置が終わり、妻と対面した夫は泣きじゃくりながら「元に戻してくれて、ありがとう」と声を振り絞った。
その響きが今も耳に残っている。
故人の顔を見て最期の別れを告げることが、少しでも遺族の重荷を軽くすることにつながると信じている。
その思いを胸に、白岩さんは故人のもとへ足を運び続ける。
東北大学3年 小田嶋美咲
慶応大学3年 上井啓太郎
東北学院大学3年 高橋有希
福島大学2年 中野恵
この記事を書いた人
- 一般社団法人ワカツクと河北新報社が主催するインターンシッププログラム「記者と駆けるインターン」。学生たちがチームを組んで、仙台の中小企業や団体を取材した記事を紹介します。ときに励まし合い、ときにぶつかりながら、チームで協力して取り組んだ“軌跡”をお楽しみに♪
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