【タクシー業】あの日を過去にしない 被災地の今を伝え続ける「仙台中央タクシー」
2014年3月に一般社団法人ワカツクと河北新報が主催した記者インターンシッププログラム「記者と駆けるインターン」。参加学生が班ごとに取材した記事を紹介します!
ハンドル握り、風化にあらがう
東日本大震災の津波で大きな被害を受けた名取市閖上地区を、再び訪れた。
震災発生から3年を迎えた2日前の3月11日と比べると、訪れる人は明らかにまばらだ。
語り部タクシー運転手の桜井慶哉さん(66)は嘆く。
「わずか2日で、この落差。これが現実です」。風化を肌で感じた。
▲「多くの人に被災地の現状を見てほしい」と語る桜井さん=3月13日、名取市閖上
桜井さんが勤める仙台中央タクシー(仙台市宮城野区扇町)は2012年11月、語り部タクシーを始めた。
利用者の希望に応じて被災地を回りながら、被災状況や震災前の街並みなどを語り聞かせる。
桜井さんを含む37人が活動する。
桜井さんは津波で宮城野区蒲生の自宅を失い、娘の夫を亡くした。
沿岸被災地を巡る途中、仮設住宅を窓越しに見せて「お金も体力もないお年寄りは、仮設から出たくても出られない」と声なき声を代弁する。
「3年たっても復興がみえない」と自らの不満をこぼす。
現状をありのまま見てもらい、気持ちを率直に語ることで、被災地の実相を伝える。
同社が「語り部」を始めたのは、被災地を訪れる人が震災半年を経て明らかに減ってきたことがきっかけだった。
神田稔専務(38)は「被災地が忘れられてしまう危機感があった」と振り返る。
風化を防ぎたい一心で始めたが、被災住民からは「震災を売り物にするな」などと非難を浴びた。
直接話し合いの場を設け、「津波の怖さを知っていれば、助かる命もあったはず。被災現場に来れば、防災の意識も高まる」と理解を求めてきた。
「より多くの人に震災を伝えるには、より多くの語り部が必要」と他社に協力を呼び掛け、取り組みは業界全体に広がった。
現在、宮城県内33社の運転手約100人が携わる。
語り部の先駆けである桜井さんはこれまで、関東を中心に全国から訪れる1000人以上を案内してきた。
「みんなの震災への関心が薄れている上に、メディアもあまり伝えなくなった。だからやっている。やめろと言われるまで続けますよ」。
あの日を過去にしないため、被災地の今を走る。
小松廉(立教大3年)
田中晶子(東北学院大3年)
佐藤彩野(宮城学院女子大3年)
武藤大紀(東北福祉大2年)
この記事を書いた人
- 一般社団法人ワカツクと河北新報社が主催するインターンシッププログラム「記者と駆けるインターン」。学生たちがチームを組んで、仙台の中小企業や団体を取材した記事を紹介します。ときに励まし合い、ときにぶつかりながら、チームで協力して取り組んだ“軌跡”をお楽しみに♪
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