食べることが共生のスタートに
仙台市宮城野区榴岡にある「みやぎNPOプラザ」の1階に、カフェ「オリーブの風」はある。赤いエプロン姿の店員が客を迎える。「いらっしゃいませ」。大きな窓から光が差し、爽やかな風が吹き込む。客の会社員や主婦らは、人気の日替わりランチが待ちきれない様子だ。スパイスのにおいで、今日の日替わりはカレーだと分かる。
ここで働くのは、約10人の精神障がい者たち。社会的自立を支援するNPO法人「シャロームの会」が運営している。シャロームとは、ヘブライ語で「大丈夫」という意味だ。仙台市内で「オリーブの風」を含む3つのカフェや総菜店を経営し、店の掃除や接客などを通して実社会に出るための就労訓練を続けている。地道な歩みは今年10年目を迎えた。
シャロームでは精神障がい者を「チャレンジド」と呼ぶ。「神様から挑戦すべきことを与えられた人」と捉えているからだ。理事長の菊地茂さん(57)は「精神障がいは『関係の病』」と話す。目に見えない病と向き合うチャレンジドたち。「就労訓練を通して、長い時間をかけて他者との関わり方を知っていくことが大切なのです」と語る。
菊地さんは毎日のミーティングで、チャレンジドひとりひとりと握手をし、コミュニケーションをとる。チャレンジド自身に、「自分は必要な存在なんだ」と気付いてほしいからだ。「年に1回しか来れない人もいる。来てくれるだけで十分嬉しいのだと伝えたい」
その思いが届いた出来事がある。小学5年以来、親以外とは口をきかなかったジュンイチさん(23)。シャロームの施設内で、首を振るか筆談でしか意思表示しなかった。菊地さんとスタッフは、いつか話してくれると待ち続けた。施設に通い出して5年目の2012年11月、一日の終わりのミーティングで、ジュンイチさんは突然口を開いた。
「良かったです」。表情を変えず、ぼそぼそとつぶやいた一言。周囲から大きな拍手が起こった。
菊地さんは「存在が受け入れられたと実感できたのでしょう。待ち続けて良かった」と、あの日の喜びを振り返る。ジュンイチさんはその後、日常的に話すようになり、今年5月には仙台市内の洋菓子店に職を得た。
「障害者雇用に関心を持つ会社が増えてほしい」と願う菊地さん。「障がい者が働く現状を知ってもらうことで、理解、関心につなげたい。その一歩として、まずは私たちのお店にお越しください」
▲客にカレーを出すチャレンジドの店員=仙台市宮城野区榴岡、カフェ「オリーブの風」
おいしそうなにおいが運ばれてくる。「お待たせしました」と小さな声が聞こえる。少しぎこちない笑顔。それでもシャローム。大丈夫だよ。一口味わい目を上げると、ちょっと満足そうな顔の店員さんと目線があった。
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