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放射能に立ち向かう男!べこらぼ仙台・津田和俊さん①

根本 もっさん
2,854 views 2014.01.31

前回、『非バトルタイプコワーキングスペース』ノラヤさんへ取材した際に、管理人の宗形さん
から「市民科学者」として紹介されていたあの方を覚えていますでしょうか?

今回は、震災を機に、大学で学んだ専門知識を生かし、一般市民の方向けに放射線の測定をされている「市民科学者」、津田和俊さんのお話です。

ではさっそく、津田さんの活動拠点『radio active café べこらぼ仙台』に向かってみましょう!

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根本
すごいなぁ…。

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津田さん
ガラクタですよ。

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いやー面白いですねー(笑)
『バック・トゥ・ザ・フューチャー』のドクみたいです。

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※放射線測定器『シンチレーター』

津田さん:まず放射線を光に変換するんです。結晶を通ると、放射線が光になる。

根本:その光の大きさで放射線を測定する。

津田さん:そうそうそう。

根本:つまりこの中には結晶が入っているんですか?

津田さん:ええ、ヨウ化ナトリウムって結晶。放射線が入ると結晶が光を発して、その光を増幅して、電気信号に変えて、測定する。

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根本:へぇぇ、すごいなぁ。こういうこと全然わからないので、本当にためになります。

『科学忍者隊』の素顔

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根本
今回、『いぐする仙台』という名前で、仙台でいろんな働き方をされている人を紹介していくというのが主なコンセプトなんです。『はたらくというのはもっと楽しんでもいい』ということで。

tudasann1津田和俊(かずとし)さん
はい。※デジタルメディアアンドアーツ勤務。
大学時代、理学系で原子力物理を研究。
震災後、一般市民でも放射線測定できる場所『radio active cafe べこらぼ仙台』を主催。
自称:科学忍者隊

根本宗形さん(ノラヤオーナー)のお話をお聞きしてすごい面白いなぁと思いながら、津田さんもどういうふうに働いておられるんだろう?というのも僕自身すごく興味がありまして。お仕事としてこういうことをされている、ということを少しずつお聞きしたいなと思うんですが。

津田さん:本業はIT関連の仕事で、学術文献のデータベースづくりが本業なんですけど。

根本:あ、そうなんですね。基本的に、生計というのはそちらの方で立てていらっしゃるんですか?

津田さん:そうですね。放射線計測については元々ボランティアに近い形でやっていたんで。ま、一応会社として備品を買っちゃったので、会社の事業としてもやってるんですけど。

根本:なるほど。HPを拝見させていただいたんですけども、『デジタルメディアアンドアーツ』というのがデータベースなどを作られている会社のお名前ということですか?

津田さん:そうですね。

根本:放射線測定などの方で事業化していくという予定は元々なかったということですか?

津田さん:元々はなかったですね。うん、最初の頃は情報もなかったので色々と問い合わせもあったんですけど。今は落ち着いてますね。

根本:そうなんですね。放射線測定をしていこうとなったのは、やはり震災があってからですか?

津田さん:そうですね。震災があってから。

根本:震災があってから備品なども集めて?

津田さん:そうですね。だいたい2年前の今頃ですかね。こういった測定器をそろえたのは(インタビュー実施日は2013年11月21日)。

根本:なるほど。震災から半年経つか経たないかくらいの時期ですね。その時はまだ、仙台市の方でも、なんというか、放射線に対する恐怖というか、そういったものもあったということですかね。

依頼から見えたリアルな需要

津田さん:そうですね。例えばその頃は、食品の中にどれくらいのセシウムが含まれているかとか、調べようがなかったので。調査機関に頼むと1回2万円とかかかるわけです。

根本:1回2万円となると、細々と商売を続けているお店なんかは商売にならないですね。

津田さん:まぁ、そうですね。その頃一番問い合わせが多かったのは、親戚からずっとお米を送ってもらっている人。毎年とれたお米をもらっているんだけど、これが本当に安全なのかどうか分からないっていう。

根本:あ~、なるほど。

津田さん:うん。今までの付き合いがあるから、いらないとも言えない。だから本当に大丈夫か調べたいって問い合わせが初めの頃はとても多かったです。

根本:そうだったんですね……僕は実家が福島で、毎年じいちゃんたちがお米を送ってくれていたんですけど。検査なんかもしっかりしているし、僕は大丈夫だろうと思って特に不安なく食べてたんですけど。たぶん、どこかで不安に思う人も中にはいるのかなぁと思います。

津田さん:それを自分の目で見て安心できる、というのが最初の頃に、ここで検査する意味だったんですね。

根本:なるほどなぁ……なんというか、すごいリアルな需要ですね。

津田さん:そうですね。今はもう無料で仙台市が自治体で測定を実施してくれているので、そういった依頼っていうのはほとんどなくなったんですけど。

根本:そうすると初めの頃は自治体で測定してくれる、ということはなかった。

津田さん:そうですね。丸森町とか栗原市とか、放射能汚染がひどかった地域はやっていたんですけど、仙台市は放射能汚染がほとんどなかったので。

放射能による汚染について

根本:僕もいまだに良くわかってないんですけど。放射能汚染がひどい所、線量が高くなってしまっている所と、全然ない所というのは、やっぱり風向きとか、そういう要素なんですか?

津田さん:そうですね。

根本:それっていうのは、やはり原発が爆発した時の。

津田さん:爆発した後なんですけど。具体的に言うと、3月14日の夜なんですよ。こちら(仙台市)に飛んできたのは。

根本:は~、なるほど。

津田さん:そん時は青葉山でもようやく停電が復旧して、計測器を使えるようになって、よし観測できるぞって状況になった時に、ちょうどよく飛んできたんです。

根本:へぇー!では仙台に飛んできた放射性物質を、青葉山でタイミングよく観測できた。凄いですね。

津田さん:そうですね。

根本:仙台は(線量は)それほどではなかった。

津田さん:そう、たまたま。福島から峠を越えてきた時に、峠越すところでまず(地上に)当たって、その後どんどん(仙台市の)上空を素通りしたみたいなんですね。そのあと栗原の方で、たまたま寒冷前線がやってきて、寒冷前線とぶつかり雨が降って、空気中を飛んでいたの(放射性物質)が雨で地上に落ちた。

根本:なるほど……。じゃあその、飛散した際の風向きと、あとは雨とか雪などが要因で線量の差が出た。じゃあ仙台市は本当に運が良かったんですね。

津田さん:そう、たまたま。本当に運が良かったとしか言いようがない。

根本:はぁー、そうなのか…。

度重なる偶然

津田さん:まぁ、それが後々響いてくるんですけど…。

根本:というと?

津田さん:栃木とか茨城とか、どこもたまたまなんですけど、県庁所在地の線量が低いんですよ。宇都宮も水戸も。で、その周辺の栃木だと那須塩原とか日光とか、あと茨城だと北茨城とか柏とか、なぜかあの辺の汚染が周囲よりも高いところがあって。

根本:はい。

津田さん:だいたいどこの県にも、県庁所在地には計測する機械があったんですけど、たまたま県庁所在地の線量がどこも低かったために(県庁所在地の周りに、線量の高い地域があったことが)最初のころはよく分からなかった。

根本:なるほど、なるほど……。

津田さん:で、あとになってあちこちに高い所があるらしいと騒がれだしたのが5月6月ぐらい。どうもおかしな所があるぞと。

根本:元から県庁がある場所には、計測器があったんですね。

津田さん:ええ、各県に一つはあったので。定期的に観測している場所があった。

根本:へぇー、知らなかった……。つまりある意味、県庁のある地域に汚染箇所があれば、早く気付くことができたんですね。

津田さん:そうですね。

根本:飛散しているという話だと、たとえば静岡の一部でやたら線量が高い場所があるという話もありますよね。

津田さん:やたらというほどではないですけどね。

根本:若干、というくらいですか。

津田さん:ええ。だいたい静岡くらいが飛んできた境界くらいですね。それより西日本側になると途端に低くなる。

実際の汚染具合

根本:引き続き自分の興味の範囲のことを聞いてしまうんですけど。実際の汚染具合というのは、本当に健康に害のあるレベルになっている地域ってあるんでしょうか?

津田さん:もちろんありますよ。原発の周辺はやはりね。

根本:現在避難指示が出ておらず、普通に人が住んでいる区域では?

津田さん:ないですね。

根本:そこはある意味信用していいところですかね?

津田さん:ええ。まぁその境界がどこかという線引きは、非常に難しいところなんですけどね。厳しめに取るかゆるめに取るかで 1市町村が入るか入らないかという話になるから。

根本:そうですよね……僕自身いわき市出身なので、双葉町や楢葉町出身の友達もいて、どうしても気になってしまうところなんですよね。

津田さん:あー、楢葉町がちょうど境界のあたりですね。帰れるか帰れないかの。

根本:そうですね、住み続けると影響が出るかもしれないという。

津田さん:そう。ただそれも何万人に1人影響が出るかどうかという話なので。

線引きが難しい「危険・安全」

根本:難しいところですよね……安全といってもちょっと嘘が混じるし、危険だといっても何か違うし。

津田さん:だからスパッと線引きができないんですよね。白から黒までの間、グレーゾーンがずいぶん広いので。

根本:なるほど。

津田さん:ここからここまでが安全でここからここまでが危ないです、ということがなかなか言いにくい。

根本:確率論ですものね。

津田さん:そうですね、『この線量でこの地域に何十年住んでいると、何万人に1人の確率でガンになる可能性が高まります』という、そういう世界なので。

根本:そういう言い方しかできない。

津田さん:そうですね。

根本:なるほどなぁ…。

津田さん:世田谷でおばあちゃんの家の床下から、なぜかラジウムが見つかったって事件がありましたよね。

根本:あー、ありましたね。

津田さん:あの時何十マイクロ(シーベルト毎時)って単位だったんですよね。

根本:それは…危なかったですね。

津田さん:ええ。ただその環境で何十年住んでいても、元気な人は元気なんですよ。

根本:あー、そうですよね。

津田さん:だから確率の問題なんですよ。『その環境で何十年も暮らしていて、何万人に何人起こりうる』という。必ず起こるのではない。

根本:そうなんですね。

放射能測定を始めたきっかけ

根本:放射線測定の仕事を始めたのは震災後ということで、測定器の部品などは11月頃購入されたということだったんですけど、最初の活動をしたのはいつ頃だったのですか?

津田さん登米市の稲わら騒ぎの時ですね。

根本:稲わら…。

津田さん:あれですね、セシウム牛騒ぎ

根本:あー!ありましたね。

津田さん:あの騒ぎは7月頃だったんですけど、その前は石巻の漁港で瓦礫の撤去作業をしていましたね。

根本:あぁ、そうだったんですね。

津田さん:大学から離れて10年以上になるので、まぁ、放射線がいろいろ騒ぎになっているけど、俺には関係ないだろうなと思いながら。昔勉強していたので、ガイガーカウンターの部品をヤフオクで仕入れたりしつつ。

根本:へぇー、ヤフオクであったんですね。

津田さん:ええ。あの頃は本体は新品で10万円くらいで売っていたんですけど、性能としてはオモチャレベルの物だったので、これは手を出すもんじゃないなと思って見てたんですけど、普通の人は分からないので。

根本:それでしか測れないと思ってますからね。

ヨドバシで4000円!?身近になった測定器

津田さん:ええ。今でいうとこれかな。

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津田さん:見たことあります?

根本:ないですね。

津田さん:これエアカウンターSって言って、ヨドバシカメラとかで今だいたい4000円くらいで売ってるんですけど。これより性能が劣るものが、当時10万円で売ってたんですね。

根本:あぁ…なるほど。

津田さん:専門的に勉強した人は『こんなもん買うもんじゃない』ってすぐ分かるんですけど、分からない人はこれ(10万円のもの)を買うしかなかった。

根本:そうですよね。原理が分かるわけじゃないから、測るにはそれ(10万円のもの)を買うしかないと思う。

津田さん:そうそう。その当時は正しい測り方もみんな知らないから、めちゃくちゃな測り方をしている人がいて……いろいろ操作すると、値が高く出る方法とかあるんですよ。

根本:あぁ…。

津田さん:で、わざとその高く出る測定法を行って『こんなに危ない!』って言う。今でもいますよ、そういう人。

根本:…なんというか、詐欺師みたいなものですね。

津田さん:そうそう。地面に直接置くであるとか、そんな測り方をしていると正確な値は出ないと、知ってる人は知ってるんですけどね。

根本:なるほど…これ(エアカウンター)は、このままで結構ちゃんと測れるんですか?

津田さん:うん、安い割にはかなり正確に測れる。

根本:あー、むしろ、4000円の物の方が性能がいいんではないかという。

津田さん:そうですね(笑)

震災が及ぼした意外な影響

根本:これ(エアカウンター)は震災の前にはなかった商品なんですか?

津田さん:そうですね、震災後に。1年ぐらいかかったんですな、これが出てくるまでに。

根本:あー、1年で開発したと。

津田さん:これはエステーが販売してますね。

根本:エステー化学。

津田さん:で、この機種を開発製造したのがタカラトミー

根本:タカラトミーっていうと…おもちゃの会社ですよね?

津田さん:そうですね。

根本:すると、いろいろな業種の会社が協力して作ったんですね。普段はこういうことってあるんですか?

津田さん:まぁ、この馬鹿力で開発したのは震災後でしょうね。

根本:なるほど。震災があったからできたことなんだなぁ…。

 次回の記事では、実際に測定して分かったことについてお送りします。

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