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「株式会社 和がき」カキ養殖に新たな風吹き込む

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415 views 2018.11.01
2018年8月から9月にかけて、河北新報社と一般社団法人ワカツクが主催した、記者インターンシッププログラム「記者と駆けるインターン」。参加学生が執筆した記事を紹介します!

カキ養殖に新たな風吹き込む

「1年中、うまいカキを届けられる」。
東松島市東名にある水産卸「株式会社 和がき」の代表、阿部年巳さん(41)は自信を見せる。宮城県内の複数の産地からカキを仕入れ、その時期に一番状態のいいものを全国に出荷。むき身出荷が主流の中、鮮度が高い殻付カキにこだわる。
「甘みが強く、身に弾力がありプリッとしている」と取引を求める飲食店が後を絶たない。

阿部さんは、地元のカキ漁師でもある。味や旬を見極めて、質のいいものを漁師から直接高く仕入れ、新鮮なうちに飲食店に安く販売する。漁師、販売先双方から信頼され、長い関係を築けるメリットがある。
「漁師の気持ちが分かるから思いついた」。仲介業者を介さない独自の販売方法は、阿部さんならではのものだ。

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会社を設立したのは、東日本大震災から9か月が過ぎた2011年12月。県内のカキ養殖は壊滅的な被害を受け、阿部さんは父を失った。自宅や漁船も流された。
「ゼロからのスタート。宮城のカキを再び全国に売り出したい」。悲しみの中でも、カキへの思いが前を向かせた。
「漁師は家族経営で、漁場の広さも代々決まっている。販売先も限られる旧来漁業のしがみから脱するチャンスだ」。震災というピンチが、起業への原動力になった。

始めは苦しい経営が続いた。それでも取引先の開拓に取り組むうちに、徐々に「和がきのカキをまた食べたい」という声が寄せられるようになった。手応えが阿部さんを後押しした。今では北は北海道から南は九州まで、約400店から注文が来るようになった。
「被災地の産物だからではなく、また食べたくなるカキだから」と言われるほど、取引先の評価は高い。カキは冬が旬だが、「ミルキーで濃厚」と近年注目されつつある夏ガキの販売にも力を入れる。「より多くの県産カキを全国に届けたい」と阿部さん。宮城のカキ養殖に新たな風を吹かせる挑戦は続く。

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取材後記

自分の目で地元である宮城を見つめ直したいと思い、今回のインターンシップに参加しました。取材先の「和がき」の代表、阿部年巳さんとは今回のインターン中に出会った方の紹介で知り合いました。思いもよらず東松島を訪れることになり、人とのつながり、巡り合わせの大切さを身を持って感じました。
東松島のカキ養殖は、震災で大きな打撃を受けたと聞いていました。ですが実際に行くと、穏やかな海にたくさんのカキ棚が広がっていました。海からカキを持ち上げた時のずっしりとした重さが忘れられません。今回、阿部さんを取材して感じたことは、ピンチをもバネにする力強さです。「和がき」は震災後に立ち上げた会社であり、私はどこか心の中で、辛い思をされたはずだと思い込んでいるところがありました。ですが、お話を聞くと、阿部さんは震災に対し悲観的なことは語られませんでした。阿部さんの力強い言葉たちが心に刺さると同時に、私は「被災地だから」という先入観を持っていたことに気づかされました。
震災から7年半が経った今、かさ上げが終わっていない様子や人口が減ってしまった地域を見ると、まだ震災は終わっていないと感じます。ですが、悲しみに暮れているばかりではありません。ふるさとを愛し、ふるさとと共に、前に進んでいる人達がいます。私の目には宮城は温かく、そして力強く映りました。就職活動真っ只中ですが、改めて宮城で働きたいと感じた14日間でした。

取材協力

株式会社 和がき

文・写真

河北新報社インターンシップ18期B班 
早稲田大学3年 吉永 朱里(2018年9月当時)

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この記事を書いた人

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一般社団法人ワカツクと河北新報社が主催するインターンシッププログラム「記者と駆けるインターン」。学生たちがチームを組んで、仙台の中小企業や団体を取材した記事を紹介します。ときに励まし合い、ときにぶつかりながら、チームで協力して取り組んだ“軌跡”をお楽しみに♪