記者インターン

「岩井畳商工店」編み目の温もり小さく手元に

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257 views 2018.05.31

2018年2月から3月にかけて、河北新報社と一般社団法人ワカツクが主催した、記者インターンシッププログラム「記者と駆けるインターン」。参加学生が執筆した記事を紹介します!

編み目の温もり小さく手元に

指でなぞると、波打つ畳の編み目。千代紙をはおった畳のコースターが並ぶ。若草、ピンク、やまぶき色の品々が色鮮やかに輝く。
仙台市太白区に店を構える、創業約90年の老舗「岩井畳商工店」。3代目店主の岩井武宏さん(58)は、「有職(ゆうそく)畳」と呼ばれる伝統工芸品を作ることのできる、高度な技術を持つ職人だ。普段は畳の新調や張り替えに取り組み、合間をぬって小物作りをしている。
その成果を出品しているのが、陸奥國分寺薬師堂(同市若林区)の手づくり市。3年前に誘われて以来、毎月その市へ出店し続けている理由がある。「身近なものを通して、たくさんの人に畳を知ってほしい」。

小物を作り始めたのは、畳屋を継ぐために勉強をしていた19歳の頃だった。畳の技術の粋を集めた作品の展覧会へ行き、畳の奥深さに引き込まれた。
本を頼りに見よう見まねで作った。サイコロ、枕、サッカーボール…。試行錯誤を繰り返し、作り上げた達成感が、次の作品に挑む原動力となった。
30歳で店を継いでからは、畳を注文した人に小物をプレゼントしていた時期もあった。

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畳の現状は厳しい。東日本大震災を機に、一時的に需要は増えた。個人の依頼で石巻市へ行くと、その周囲の家からも新調を頼まれ、しばらくは多忙を極めた。息子の勇人(はやと)さん(28)の力を借り、すべての畳を作り終えた。
しかし最近は、発注が少なくなっている。フローリングや張り替えを必要としない、化学繊維を使った畳が普及し、従来のわらで編んだ畳は時代遅れになりつつあるからだ。そんな中、息子が店を継いでくれた。「やっぱり嬉しいですよね」と笑みをこぼす。

「どんなものにも挑戦する」と意気込む岩井さん。手づくり市へ来た人の声に応えて、新商品を売り出している。身近なものを手に取り、少しでも畳に興味を持ってほしい。職人として、父として、思いを込めて作り続ける。

取材後記

震災から7年。東京では東日本大震災の報道が減り、私の記憶からは消えかけていました。そんな時に先輩から勧められて、私は初めて被災地に足を踏み入れました。忘れたい過去、辛い現実、進まぬ復興。負のイメージが私の頭で膨れていました。
取材で出迎えてくれた岩井武宏さんの笑顔は、震災を乗り越え、未来を見つめる目をしていました。また、津波で息子を失い、現在は語り部の活動をされている方の話も聞きました。涙を浮かべながらも語る訳は、2度と同じような被災者を出さないため、そして次世代に津波の恐ろしさを伝えるためです。
実際に行ったからこそ、分かることがたくさんありました。震災を語り継ぐ石碑、生まれ変わる街、そして力を合わせて前へ進む姿。全てが順調ではなかった復興の道のりは、まだ続きます。私たちにできるのは、この経験を伝え残すことです。
私が記事を書く際にお世話になった方々へ、感謝の言葉を述べたいです。取材を快諾し、長時間のインタビューを2回も受けてくださった岩井さん。このインターンを企画してくださった河北新報社のみなさん。私の拙い文章を添削してくださった記者の方々。そして、2週間苦楽を共にした17期のみんなにお礼を申し上げます。誰か1人でも欠けたら、私はこの記事を執筆できなかったでしょう。本当にありがとうございました。

取材協力

岩井畳商工店
※リンク先は「たたみの匠」

文・写真

河北新報社インターンシップ17期A班
明治大学2年 千葉茂樹(2018年3月当時)

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この記事を書いた人

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一般社団法人ワカツクと河北新報社が主催するインターンシッププログラム「記者と駆けるインターン」。学生たちがチームを組んで、仙台の中小企業や団体を取材した記事を紹介します。ときに励まし合い、ときにぶつかりながら、チームで協力して取り組んだ“軌跡”をお楽しみに♪