「ケヤキコーヒー」地域をつなぐ一杯に
2018年2月から3月にかけて、一般社団法人ワカツクと河北新報が主催した記者インターンシッププログラム「記者と駆けるインターン」。参加学生が執筆した記事を紹介します!
地域をつなぐ一杯に
仙台市若林区荒井の住宅街にある小さなカフェ「ケヤキコーヒー(KEYAKI COFFEE)」。温かい雰囲気の店内にはこだわりの木製家具が17席、ゆったりとしたジャズの音楽が流れている。カウンターでコーヒーを淹れるのは、オーナーの松木勇介さん(30)。開店と同時に、作業服を着た出勤前の男性がコーヒーを購入した。「いってらっしゃい」。立ち上がる香りがお店いっぱいに広がり、松木さんの朝は始まる。
専門学校を卒業後、航空会社に就職。航空整備士として働いていた。社内資格の勉強をしていた2011年、東日本大震災が発生。松木さんのふるさと・若林区荒浜も、津波で大きな被害に遭った。震災から2週間後に訪れると、生家は原型をとどめたまま内陸2キロ先まで流されていた。
ふるさとの力になりたい―。衝動的な気持ちに駆られた。航空整備士を辞め、趣味のカフェ巡りの経験をヒントに一念発起。「仙台を代表するカフェを開き、人が集まる語らいの場を作りたい」と人生を賭けた。バリスタを目指し、3軒のコーヒー店を掛け持ちしながら技術を学んだ。「日本一のバリスタのいるところで働きたい」と長野県・軽井沢のお店で3年間の武者修行。杜の都・仙台を象徴するケヤキのように、地域に深く根を張る店になろうと「ケヤキコーヒー」と名付け、16年にオープンをかなえた。
店では、コーヒー以外のメニューも人気だ。ケーキは若林区の洋菓子店から、パンは宮城野区のベーカリーから取り寄せている。客に「おいしいね」と言われたら、地図や連絡先を記したカードを手渡し「こちらへもどうぞ」。地域のオアシスになろうと工夫する。
店を構えた荒井地区は、居住制限区域となった荒浜から内陸4キロに位置し、被災者らが新たな暮らしを築く街として開発が進む。15年に開業した地下鉄東西線には、1日に約6万2000人が利用。人口は増加の一途だが「ハード面での整備が進む一方で、新旧住民の出会いは少ない」と松木さんはこぼす。
「コーヒーを求めて来た人たちから、自然と会話が生まれ、つながる。そんなカフェにしたいです」。師匠直伝の芳醇なコーヒーの香りが、店内を優しく包む。今日も松木さんの渾身の一杯を求め、県内外から集う人たちで店は満席だった。
取材後記
「被災者の方々って、思っている以上に明るくて元気なんだよ?」被災地の記者をしていた、担当のデスクにかけていただいた言葉です。D班は、震災から7年が経つ東北についてどう伝えるべきか、とても悩んでいました。当事者ではない私たちに何ができるのか。被災地に住む人たちの心に寄り添えるのか。そんなとき、この言葉に救われ、向き合う覚悟ができたように思います。「被災地で精一杯生きる人の、憩いの場所を取材したい」。意見は一致しました。そこで、人との出会いやつながりをコンセプトに、カフェを営むケヤキコーヒーを取材することにしました。
取材を通して分かったことは、ハード面だけでなく、ソフト面の復興にはまだまだ時間がかかるということです。店を構えた荒井地区は、被災者らが新たな暮らしを築く街として開発が進んでいますが、新旧住民との関わりは少ないのが現状です。地域の人が自然と集まり、何気ない会話を楽しむことできる“カフェ”という空間が、被災地の活性化の第一歩であり、心の復興へと導いてくれるのだと実感しました。
河北新報の紙面に記事が掲載された、3月29日。店主である松木さんに連絡をすると、こんなことをお話ししてくださいました。「早速、夕刊を見てご来店くださったお客様がいましたよ。記事を見てご来店されることはよくあることのようで、実は凄いことだと思います。それだけ、心を打たれた人がいるということですから」。
D班のメッセージが、読者の方々に届いたと思うと嬉しくて、涙が止まりませんでした。取材を快く引き受けてくださった松木さん、インターンに関わってくださった全ての方々に感謝の気持ちでいっぱいです。この経験で得たつながりを糧に、自分にできることを模索し、震災を後世に伝える活動をこれからも続けていきます。
取材協力
ケヤキコーヒー http://www.keyaki.coffee/
文・写真
河北新報社インターンシップ17期D班 東北芸術工科大学2年 菊池みなと(2018年3月当時)
この記事を書いた人
- 一般社団法人ワカツクと河北新報社が主催するインターンシッププログラム「記者と駆けるインターン」。学生たちがチームを組んで、仙台の中小企業や団体を取材した記事を紹介します。ときに励まし合い、ときにぶつかりながら、チームで協力して取り組んだ“軌跡”をお楽しみに♪
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