身近な大人に聞いてみた はたらくってどういうこと?
ワタシゴト

思いが働き方を決めた。だれもが「自分のありたい姿」を実現できる場所をつくる

菅野 智佐 菅野 智佐
716 views 2018.03.01

小尾勝吉さん 愛さんさんビレッジ株式会社

愛さんさんビレッジという会社の経営は「理想の村づくり」だと小尾勝吉(おびかつよし)さん(39)はいいます。

小尾さんは石巻市の「愛さんさんビレッジ株式会社」、塩釜市の「愛さんさん宅食株式会社」(以降、愛さんさんグループ)で代表を務めています。
有料老人ホームを運営し、リハビリ特化型のデイサービスを提供するなど、高齢福祉を担うのが「愛さんさんビレッジ」。「愛さんさん宅食」は、障害福祉を担い、塩釜市と石巻市を拠点に障がいのある人も積極的に雇用している就労支援事業です。介護の担い手として、軽度の障がいのある人の育成もしています。

「愛さんさんグループ」で働く仲間とその家族を大事にすることが、サービスを利用するお客さんの幸せに繋がる。小尾さんは「会社が村のようにみんなが支えあう場になれば」と、会社に関わる人々を本当の家族のように大切にしているのだとか。

仕事は「夢を実現できる」環境を整えること

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「愛さんさんグループは、仲間と共に自分らしく働ける空間であり、家族や大切な人を守れる自分に成長する場。働く人も利用者も、自分のありたい姿に近づける場でありたい」と小尾さんは話します。

従業員が自分らしく働けるように、小尾さんは入社した人と面談をしながら、その人が考える「自分のありたい姿」を明確にします。そして、「健康・仕事家族家庭・能力開発・趣味・経済」という5つの分野ごとに目標を設定し、半年ごとの面談で達成度を確認していきます。会社としても目標を実現できるよう、必要な制度作りを行っています。
これまでに、家族との時間を大切にするための「家族愛休暇」や、上司・同僚・部下から客観評価を受けることができる「360度評価」、評価に基づく資格手当の支給などを制度化してきました。
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働く人たちだけではありません。
有料老人ホーム愛さんさんビレッジでは、入居者や利用者に「元気になったら何をしたいか」という夢を聞いて叶えられるようにサポートします。
たとえば、車いすを使用し、介助無しでは立てなかったという方の夢は、一人でトイレに行くこと。職員さんに迷惑を掛けたくないという思いがあったそうです。
実現に向けて水分・栄養・排便・運動などを考えたリハビリプログラムに取り組んだ結果、入所から6ヶ月後、自分で立ち上がり歩行車を使いながら、一人でトイレに行けるまでになったといいます。

小尾さんは「利用者さんとその家族、そして働く仲間が夢を実現する瞬間に立ち会い、喜びを分かち合える幸せな仕事です」と嬉しそうに話してくれました。

企業理念「家族愛」に込めた思い

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小尾さんは、神奈川県川崎市出身です。都内の大学に進学したものの、留年をしたり、就職活動が上手くいかなかったりと、周りと自分を比べ今後の人生に大きな不安を抱えていました。幼少期に両親の離婚を経験し、社会への反発心を抱えながら学生時代を過ごしていたといいます。
「自分は何のために生まれてきたのかが分からず、幸せになるための答えを本に求め、何冊も読みあさりました。その中で出会った『人は必ず役割を持って生まれてくる」という松下幸之助さんの言葉に救われました」。
そして、大学生だった小尾さんは決意しました。「人の役に立ち、ありがとうという言葉に包まれながら生きていきたい。10年後に、一番困っている地域が抱えている問題を解決する会社を立ち上げよう!」
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世の中を知りたいと色々なアルバイトを経験し、バックパックを背負いアジアを旅しました。就職先はITベンチャー企業。3年間働いた後、コンサルティング会社で5年間勤め、人材教育・紹介会社の立ち上げに携わります。2011年、23歳の起業の決意からちょうど10年経った33歳の時、都内で働きながら、地元の川崎で失業者の就労支援をする会社を興そうとしていました。設立の準備を始めた時に、東日本大震災が発生します。
自分にできることはないか、引き寄せられるように石巻市にボランティアに向かったといいます。側溝の泥かきや民家の清掃のボランティアを続ける中で、被災して働きたくても働く場がない人がたくさんいることを実感しました。「東北で働こう。そして、被災した人の生きがいになること、心の復興に繋がるようなことに貢献していこうと、夫婦で移住を決意しました」。
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▲笑顔の小尾さん(提供写真)

2013年3月、仮設住宅に住む人々を雇用し、塩釜市で高齢者向け配食サービス「愛さんさん宅食」を始めました。2017年2月には石巻市に老人ホームを開所し、高齢者向けサービスを提供する「愛さんさんビレッジ株式会社」を立ち上げました。

最初に配食サービスにたどり着いたのには、被災地でのニーズに加えて、小尾さん自身の経験と、そこから生まれた思いが生きています。
「女手一つで育ててくれた母は、これから親孝行をしようと思った時にはすでに介護が必要な状態だったんです。介護の際に食事の大切さを実感しました。そのため、様々な病気や食べる人のかむ力に対応し、食材にもこだわりながら、サービスを提供しています」。
小尾さんの経験や思いは、「家族愛」という企業理念にも反映されています。
夫婦で塩釜市に移住するために、奥さんは東京の勤め先を辞めました。一緒に事業を起こしたことで、関係がギクシャクしてしまった時期もあったのだといいます。

「乗り越える過程で、僕は妻との幸せな家庭を作るために働きたいと再確認することができました。同時に、自分だけでなく一緒に働く仲間とその家族も大切にしたい。そのために仲間の一人ひとりが自分達の家族や大切な方を幸せにすることができるような環境を、作りたいと思うようになりました。理念には、母への思いはもちろん、働く仲間を本当の家族のように大切にし、幸せを願う気持ちが込められています」。

「ありがとう」という声の中で成長できる場を作りたい

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「愛さんさんビレッジは、障害福祉と高齢福祉が共存して相乗効果を生みだす共生型。介護や福祉という固定観念にとらわれずに新しいことにチャレンジしやすい環境です」と小尾さんはいいます。

「だからこそ、介護という仕事のイメージも変えることができるはず」。

愛さんさんビレッジは、自立支援型の有料老人ホームです。利用者は身の回りのことは自分でやろうと、従来は介護スタッフの仕事だという洗濯や掃除にも積極的に取り組んでいます。介護スタッフは利用者の「元気になったらしたいこと」の夢を叶えることに力を注ぎ、ホームに併設の福祉人財養成学院の生徒も実践の場として介護の手伝いをしています。

「今後は愛さんさんビレッジグループのビジョンでもある『生まれ育った環境によって人生が制限されることなく、物心共に豊かな人生を切り拓ける仕組みづくり』を目指していきたいです。そのためにも、ビジョンに共感して、理想とする社会づくりを一緒に実現する新卒の人も含めた仲間を増やしていきたい。人間的にも成長し、仲間と一緒にたくさんの”ありがとう”の声に包まれながら夢を叶えていきたいです」

小尾さんへの取材を通じて確信したことは、「職種」や「業種」にとらわれて働き方を考えるのは勿体ないということ。自分に合った職種や業種を探すだけではなく、まずは働くことでどんな自分でありたいのかを想像し、会社の目指す姿と自分の理想像が一致するかを基準に会社を探すことで可能性は広がるはず。
私自身、内定先の会社に出会う前は、情報発信に関わりたいという思いからメディア関係の仕事に関わることが就職活動の軸になっていました。しかし、掲げる「理念」や働く人たちが共通して持つ「思い」に共感できる会社と出会い、全く考えたことのなった福祉の分野に関わることになりました。情報発信をするという基準ではなく、どんなことを伝えたいのか、伝えることで社会にどのような変化をもたらしたいのかまで、視野を広げた結果、納得のいく働き方に出会うことができました。
自分の興味がないと思っていた分野に対する固定観念を捨て、個々の会社自体を見つめることで将来の選択肢が広がり、好きなことや得意なこと、今までの経験の生かせる分野も広がる。
社会人になってからも大切にしていきたい学びです。

小尾さんが作った「村」、愛さんさんビレッジグループについてもっと知りたい!と思った方は、社名の秘密を紹介したこちらの記事をぜひ読んでみて下さい。

菅野 智佐菅野 智佐山形大学(執筆当時)
取材協力・写真提供:愛さんさんビレッジ株式会社
文章・写真:菅野智佐(山形大学4年) 
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この記事を書いた人

菅野 智佐
菅野 智佐
生粋の田舎娘、‘すげのちさ’ と読みます。仙台は都会ですね。よく迷子になります(いつもか)。グーグルマップが手放せません。でも地図を読むのが苦手なので使いこなせない…。笑 こんな私ですが、読者の皆さんを取材現場に連れて行くことが出来るような記事を書いていきたいです!