「ティー・シー・エム」いのちの現場に生きる
2017年8月に一般社団法人ワカツクと河北新報社が主催した、記者インターンシッププログラム「記者と駆けるインターン」。参加学生が執筆した記事を紹介します!
いのちの現場に生きる
「今日の服、似合っているわね」。「小林幸子、歌ってよ」。
和気あいあいとした雰囲気の中、利用者とスタッフとの会話が弾む。スタッフの一言で、思わず笑みをこぼす利用者たち。ティー・シー・エムは30年以上にわたり、仙台市若林区大和町で介護事業を展開してきた。老人ホームや居宅・訪問介護、デイサービスを通して、地域の高齢者を支えている。
社長の金田憲子さん(65)は、「人生の先輩たちに尊厳を持って生きてほしい」と語る。利用者にいきいきと過ごしてもらうため、業界では珍しい活動を行っている。
「最期の時も住み慣れた施設で安らかに」。一般的に介護施設では利用者が重篤になり死期が迫ると、病院や自宅への移動を促す。しかし同社では利用者と家族の心身の負担をできるだけ小さくするため、3つある施設全てで「看取り」ができる。前提となる呼吸器などの医療器具を整え、スタッフは全員、必要な資格を持つ。
この活動の根幹には日々の取り組みがある。掃除・洗濯は毎日行い、利用者の些細な変化も見逃さない。食事の様子や話し方、手の握り具合など常に気を配る。対話にも力を入れていて、赤ちゃん言葉ではなく、あたかも「ご近所さん」のように親しく敬意を持って声を掛ける。「社会の一員」としての感覚を持ち続けてもらうためだ。日常での利用者との関係づくりがあるからこそ、利用者に「最期」まで付き添うことができる。
東日本大震災では、普段の取り組みが生きた。余震が続く中、利用者一人一人の様子の変化に気を配る姿勢は貫いた。その上で、環境が大きく変わる避難所に利用者らを移すことなく、建物に大きな被害があった中、施設で生活を続けてもらった。一人も命を落とすことなく災禍を乗り切った。
「客と職員の関係ではやっていけないのです」。施設長の工藤則博さん(63)は語る。利用者たちを愛し、自分に置き換えて考えることで現在の介護のスタイルが築かれた。「介護とは、その人の一瞬一瞬の幸せを考え続けることなのです」。スタッフ全員の思いは利用者の笑顔となって返ってくる。その笑顔を励みに、一日一日を共に生きていく。
取材後記
仙台での大学生活も、はや3年。震災の痕跡が消えつつある青葉区・太白区が生活の中心になっていたためか震災について思い出したり、考えたりすることは地元にいたときより少なかったように思います。そんな中で、震災で家や家族を失った高齢者の方々は介護施設やサービスを頼り、東北の介護・福祉事業者は受け入れや利用者の心のケアといった多くの課題を抱えているのでは。昨今たびたび厳しい現状が取り沙汰される介護・福祉業界と震災との関連について知りたいと思い、「ティー・シー・エム」への取材を決めました。
取材を重ねる中で、僕の持っていた福祉業界に対する固定概念が次々と剥がれ落ちていくような感覚を覚えました。利用者に対する心からの尊敬、決して条件が良いとは言えない仕事に誇りを持って取り組む姿勢などは取材中、お話や雰囲気から切に伝わってきました。反対に「挫折を経験した人でなくてはこの業界はやっていけない」「技術や知識よりもまず利用者に好きになってもらえるかが重要」といった現場の生の声も同時に聞き、きれいごとではやっていけない厳しい業界という側面も垣間見えました。
初めての取材を通して、何を伝えるかということに一番悩みました。目玉となる事業や活動が多くありましたが、その根本にある金田さんたちスタッフの思いや姿、福祉業界も頑張っているという事実を描こうと決めました。
今後は社会を本やネット・人づての情報だけを頼りにせず、自分の見たこと・体験したことからもとらえられる社会人を目指していきたいです。
取材協力
有限会社ティー・シー・エム http://www.tcm-s.jp/
文・写真
河北新報社インターンシップ16期A班
東北大学3年 斎田涼裕 (2017年8月当時)
この記事を書いた人
- 一般社団法人ワカツクと河北新報社が主催するインターンシッププログラム「記者と駆けるインターン」。学生たちがチームを組んで、仙台の中小企業や団体を取材した記事を紹介します。ときに励まし合い、ときにぶつかりながら、チームで協力して取り組んだ“軌跡”をお楽しみに♪
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