記者インターン

「ふくふくやま」心通う別れを

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784 views 2017.06.15

2017年2月に一般社団法人ワカツクと河北新報社が主催した記者インターンシッププログラム「記者と駆けるインターン」。参加学生が執筆した記事を紹介します!

ふくふくやま 心通う別れを

悔いなき別れを支えたい―。仙台市太白区日本平にあるペット火葬業「ふくふくやま」は、依頼主宅を直接訪ね、火葬を行う。今まで請けた依頼の中には、犬や猫はもちろん、ハリネズミやヤモリなど珍しい動物の名前も並ぶ。「家族同然のペット」をねんごろに葬りたいと願う依頼主からの電話は絶えない。

丸山徹歩(てっぽ)さん(30)、由(ゆき)さん(28)夫妻が営む。起業の原点は、由さん自身の悔恨だった。2012年10月、16年間を共にした愛犬がこの世を去った。悲しみの中、民間会社に葬儀を頼んだが、気が動転し、十分な別れができず、未練が残った。「自分のような後悔をしてほしくない」。2年間のペットアパレル会社勤務とペット仏具の販売を経て16年4月、訪問ペット火葬業の一歩を踏み出した。
火葬の予約は24時間受け付け、正装した徹歩さんが依頼主の元に駆けつける。慣れ親しんだ場所で穏やかに別れの瞬間を迎えてほしいとの思いから、訪問での葬儀にこだわっている。近隣への配慮も忘れない。自前の火葬車は、社名もロゴもない真っ白な仕立て。荷台に積んだ炉は、900℃の高温燃焼が可能で、においも煙も抑えている。言葉遣いにも細心の注意を払う。なきがらを「置く」ではなく「お寝かせする」。弔うペットにも家族にも、失礼がないように気を配る。火葬前にはペットに追悼の意を捧げる「セレモニー」の時間を設け、火葬後の収骨には依頼主が立ち会えるようにしている。人間と変わらない丁寧な弔い方に「気分が晴れた」という依頼主からの声は多く、ペットを愛する人たちの輪で静かに共感を集めてきた。

これまで東日本大震災で被災したペットも数多く見送ってきた。人間を優先せざるを得なかった災禍。愛するペットに対し負い目を感じている被災者の中には「最期ぐらいは温かく見送りたい」と望む人が少なくない。弔いの意識は、被災地を中心に人と動物の垣根を越えつつある。
「ペットがいなくなった後も飼い主は生きていかなくてはならない」。
紡いだ思い出の灯が、「家族」のこれからを照らすように。丸山さん夫妻は今日も誠心誠意、ペットと飼い主の心をつなぐ。

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▲訪問ペット火葬業を営む丸山さん夫妻。真っ白な火葬車が「家族」をつなぐ。

取材後記

震災から6年。今しかできない取材をしようと考えたことが取材先選定のきっかけでした。人命第一の震災当時、二の次と考えられていたペットの存在。今、ペットは被災者にとってどんな存在になっているのだろうか。震災以前と、直後、そして6年経った今の変化を直接尋ねてみたい。そんな思いで、訪問ペット火葬業を営む「ふくふくやま」に取材をすることを決めました。
飼い主とペットの別れの瞬間を支えている「ふくふくやま」。私たちの取材が、「ふくふくやま」創業以来初めて受けたものだったということを知り、記事執筆後は「広い被災地の中で埋もれかけている個人の営みを見つけ、発信することができた」という達成感に溢れました。
また、「飼い主にとってペットは『家族』。丁寧に、毎回の葬儀を大切にしたい」という「ふくふくやま」丸山徹歩さん、由さん夫妻の言葉が印象的でした。人間も動物もひとつひとつが大切な命。別れの瞬間にきちんと向き合うことで、残された人々は晴れやかな気持ちで明日を迎えることができる。彼らが抱く信念、そして思いやりを知ることを通して、人間の普遍的な感情の在り方を改めて実感することができました。
この経験から、ひとりひとりの営みを知ることは、私が今生きている社会、そして世界を知ることにつながるのではないか。そんな思いが私の中で強くなりました。これからも被災地に自ら足を運び、小さな営みを自分の目で発見し、発信することを続けていきたいです。

取材協力

ふくふくやま

文・写真

河北新報社インターンシップ15期B班 
上智大学2年 伊藤怜奈(2017年2月当時)

【参加者募集】河北新報社「記者と駆けるインターン2017夏」

8月14日(月)~26日(土)の期間で、地元中小企業を取材し、記事執筆のノウハウを学ぶインターン。
詳細や参加方法は、特設ページからチェック!皆さんの参加をお待ちしています。
申込締め切り7月14日(金)

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この記事を書いた人

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一般社団法人ワカツクと河北新報社が主催するインターンシッププログラム「記者と駆けるインターン」。学生たちがチームを組んで、仙台の中小企業や団体を取材した記事を紹介します。ときに励まし合い、ときにぶつかりながら、チームで協力して取り組んだ“軌跡”をお楽しみに♪