コミュニケーションを生む場づくりを段ボールで「有限会社 佐貞商店」佐藤亘さん
段ボール箱がおもちゃになる
「今日は緊張しています!」と、有限会社佐貞商店(さていしょうてん)代表取締役 佐藤亘さん(50)。まさかそんな言葉から始まると思っていなかった参加者。一気に硬い表情がほぐれ、笑い声がはじけます。2017年2月9日のいぐするテラスは「ダンボールを使って創造する、親子の新しいコミュニケーションとは?」と題して開催しました。
塩竈に本社を置く佐貞商店は1950年に創業、現在社員17名のダンボール製品の製造販売を主とする会社です。三代目の佐藤社長は、「ダンボールで親子のコミュニケーションを創造したい」と、新しい商品を開発しました。それが「段ブロック」。ブロックのように積み木状に積み重ね、つなげられる段ボール製の組み立て式の箱です。はさみも糊も使わずに一枚の段ボールを箱状にでき、さらに箱同士をつなげて大きなものに組み上げることができる…どこからそんなアイディアが生まれたの?興味津々の参加者。耳は佐藤社長の話に、目は話しながら段ブロックを組み立てる佐藤社長の手元に釘付けです。
アイディアは逆境から生まれた
「段ブロック誕生までの経緯を聞いて、アイディアの重要性に気づきました。色々な経験をしてアイディアが出せるようになりたいと思いました」参加者はいいます。
佐藤さんは、子どもが通う研究職に就いている幼稚園のパパ友と「赤羽のセンベロ(1000円で酔えるくらい安いという居酒屋の総称)で飲んでいる時にした、段ボールでレンガみたいな形を作ったらおもしろいよねという会話が段ブロックの出発点」と話します。それは段ブロックとは別の製品を実現したいと東京に出張したものの条件が合わずに断念することになった日のことでした。
佐貞商店は幾度も危機を乗り越えてきたと佐藤さんはいいます。
東北学院大学を卒業した後、「いずれは箱屋を継ぐことは腹に落ちていたものの、世の中を見たい」と他社に就職をしました。盛岡で勤務し、「持ち前の調子の良さでかわいがってもらった」けれど2年で退職。塩竈に帰り、佐貞商店に入社しました。
佐藤さんが社長を継いだのは平成19年12月のこと。「裏付けのない使命感があった」といいます。翌年1月、会社の一番の取引先が破たん。「ちょうど家を買った後だった」という言葉に参加者は息を飲みます。「5年後を想像できるか?目的は?と相談した先輩に言われて。子どもは大きくなるから、狭くても身の丈にあったものをと考えた結果、中古にした」と聞いて安堵の吐息、「危機管理をしながら生きていく必要がある」という言葉に強く頷きました。
段ボールを通した社会貢献
「『社会貢献』とても腑に落ちました。就活するとき、『何をしたいか?』ばかり考えていましたが、自分が何をして社会貢献するか?を考えることで将来について考えるヒントになると思いました。やりたいことから仕事を見つけるだけでなく『社会貢献』という視点で就活しようと思います」と、佐藤さんの話を聞いた参加者はいいます。
「儲ければいいや、金だけ稼いでいれば、給料さえもらえればいいやとなってくると、非常に殺伐としてくるわけ、人生が」と佐藤さん。自分自身もついこの間まで殺伐としていたといいます。「いくらやっても這い上がれない。10年くらい罰ゲームじゃないかと思ったくらい」。でも、色んな人と関わったり、色んな取り組みをしていったり、大人になってからも勉強をしていったりする中で、あるとき考えました。段ボール屋の社会的責任はなに?と。
箱を使う人に供給することが使命。大切な商品や作物を入れて多くの人に届けることができる段ボール。これはコミュニケーションをつくっていることなのでは。でも、それは段ボール屋であれば誰でも実直にやっていること。自分の本業を通してどう世の中に働きかけ、どういうことで役に立つのか。真剣に考え行きついたのが「社会性」。佐藤さんにとっては「子ども」という視点でした。
「もし結婚していなかったら、パパ友と出会わなかったら、段ブロックは作れなかった」。
ある時、幼稚園に段ボールを寄贈したところ、運動会などのイベントで使ってくれました。さらに余っていた白い板状の段ボールを寄付したところ、紙芝居や大きい絵本など子供たちが自分で考え作っていたのを見て「段ボールってすごい」と思った。同じようにすごいと思ったパパ友と話していて生まれたのが「段ブロック」でした。
コミュニケーションを生む場づくりを段ボールで
「過干渉、過保護、親も子どもも『ダメ』と言われることが多いように感じます。段ボールならぶつかっても、壊しても平気」。
レンガのような形の段ブロックは、一つ一つはめ込み、接着材を使わずに大きなサイズのものを作ったり解体したりすることができます。「子どもが座れる王様みたいな椅子とか、小屋とか」と、言いながら次々に写真を見せてくれる佐藤さん。参加者も童心に返ったように楽しそうに歓声をあげます。
子どもが夢中になると、親も一緒に楽しくなる。それがコミュニケーションを生むのでは。段ボールには地域性がないからこそ、場づくりが使命になるのではないか…。社会的な視点で仕事を考えていきたいと佐藤さんはいいます。
「一、私たちは、包む心を創造し、喜びと感動を提供します。一、私たちは、資源の循環を実践し、環境を守る会社です。一、私たちは、多くの出会いの中から学び、共に夢の実現に向けて歩みます」。名刺にも書いている佐貞商店の経営理念です。
「段ボールは絶対になくならない。箱作りでも、視点を変えれば提案も変わる」と話す声に熱がこもる佐藤さん。段ブロックを通してみたら、世の中がどうなるか、その先を見ていきたい。目を輝かせる姿に、参加者も頷きが止まりません。「段ブロックは場づくりができる。それでどんな付加価値を生み出せるか。単に売るだけでない、その先にある尊い付加価値を目指していきたいです。利益だけでなく、社会的意義も考えながら、しっかり会社を運営していきます」。
取材協力:有限会社佐貞商店
文章・写真:安部静香(いぐする仙台)
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この記事を書いた人
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「そんなに寒くないよ」と言われる仙台の冬が苦手な冬生まれ。
おいしいもの大好き。美味しいお店から発せられるオーラ(?)を感知するのが得意。
活字中毒気味。働いてなければ間違いなく冬ごもりします。
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