基礎研究だからこそ、インパクトの大きい方向へ「株式会社TBA」川瀬三雄さん
TBAは遺伝子を検査するツールを製造する社員8名の会社。「世界の子供たちに健やかな未来を」がミッションです。川瀬さんが東北でTBAを立ち上げたのには2つの背景があるのだと言います。
1つ目は大手セラミックメーカーで長年バイオの研究に携わってきた川瀬さんの経歴。2つ目は震災復興、地域イノベーション。東北には物をきちんと作るのに向いている人が多いと感じ、この地で「モノづくりをする会社」を立ち上げることにしました。
「基礎研究だからこそ、向かう方向はインパクトの大きい方向」
▲検査キットのストリップを手にする川瀬さん。
「夢と理想と自己実現とビジネスとのバランスって重要だなと思った。わくわくした」と、理系の東北大生は言います。「基礎研究だからこそ、向かう方向はインパクトの大きい方向」という川瀬さんの言葉が印象に残ったそう。
TBAは、DNAに目印をつけ、検査できるようにするという遺伝子検査の技術を持っている会社です。使用範囲は広く、検査するターゲット遺伝子を何にするかの設定次第。動物に限らず遺伝子(DNA)であればどのようなものにも使えるのだそう。元々の狙いは人に対する感染症原因菌(ウィルス含め)の検査への使用でした。ジカ熱、デング熱、チキングリア等々、熱帯系の各種感染症の検査ができるようになってきましたが、少し変わったものとしては、「近年、世界で最も重要なタンパク源の一つである養殖エビの病気(感染)の検査にも使えることが分かってきています」と、川瀬さんはいいます。
▲このストリップがTBAの商品の最終形。この先の加工はお客さんがする
技術の応用先をどう見つけていったの?という質問に対し、「すごい戦略がある」と川瀬さん。聞いている学生たちは引き込まれるように、身をぐっと乗り出します。
「使い方はお客さんが考える。我々は考えない」。
TBAが検査対象となる遺伝子に目印となるタグDNAを結合させ検査する技術を開発し、検査対象が遺伝子なら何にでも使えるよう工夫をしたからこそ、取引先の多くの検査薬や検査キットメーカーは、自分たちが把握している市場のニーズに合わせて検査キットを開発し、商品化する事が出来るのだといいます。TBAは基幹部品を製造販売する会社。遺伝子検査の重要ツールを1ドルで卸し、取引先はそれを検査キットに仕上げて約10ドルで売るのです。「我々は新しい技術を提供するが最終商品の1/10のビジネスしかできない。それでいい」。
会社の経営資源が限られているからこそ考えなければいけないことがあります。
「(その検査キットを)どこで、誰が使うかが、すごく重要です」。安く提供したいけれど、「安さの前に、発展途上国でも、インフラがなくても、知識がなくても誰でも使える技術を提供しよう」。使い道のアイディアを寄せてくれた企業とどういうところで使ってもらうかブラッシュアップをするとともに、検査キットのどういう良さを出せばいいのかというところもを考えておく。TBAは限られた資源を遺伝子検査技術(基幹部品)のブラッシュアップにフォーカスさせ、最終商品としての遺伝子検査キットの開発やビジネスは検査キットメーカーに任せる。いわばオープンイノベーションで用途を広げているのです。
基幹部品の提供はいわばビジネスの入口。商材の根っこの方でTBAは商売し、事業のボリュームが大きくなるように。お客さんが寄せるニーズによって利用範囲は意外なところに広がっていきます。「だからこそ、いろんな仲間ができる」と笑いながら話す川瀬さん。「早くこれ(TBAの技術)が入っていることが常識(デファクトスタンダード)になるようにしたいです」。
ビジネスに理系文系の垣根はない
TBAは分類するならば、理系の会社だと言えます。ところが話はエビの養殖からビジネスモデル、ベンチャーは日本人の資質に合うのか、はたまた「仕事」ってどういうものなの?ということにまで及びました。
文系の学生は、現在興味を持っている農業に、川瀬さんのビジネスモデルを重ね合わせて考えたのか、「B toCを極めていこうとする現在の農業の方向性に対して逆にB to B的なモデルも組み合わせていくという発想もありなのかなと思った」といいます。
「国からのお金の支援制度のあり方についても色々と考えさせられた」。「言葉が生き生きとしていて楽しかった」。話題がつきず、あっという間に時間が経ちました。
取材協力:株式会社TBA
文章・写真:安部静香(いぐする仙台)
この記事を書いた人
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「そんなに寒くないよ」と言われる仙台の冬が苦手な冬生まれ。
おいしいもの大好き。美味しいお店から発せられるオーラ(?)を感知するのが得意。
活字中毒気味。働いてなければ間違いなく冬ごもりします。
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