一人一人のために 寿司を握る「遊食処 すしの貴伸」
2016年8月に一般社団法人ワカツクと河北新報が主催した記者インターンシッププログラム「記者と駆けるインターン」。参加学生が執筆した記事を紹介します!
一人一人のために 寿司を握る
目尻に刻み込まれた皺が、人生を語る。髙橋伸司さん(49)は、多賀城市内の寿司店「遊食処 すしの貴伸」の大将である。カウンターに立つ表情からは、常に笑顔が覗く。
親しみやすい人柄の裏にあるのは粋な心遣い。年配の客であれば食べやすいようにシャリは小さめに握る。生のアワビは固いので蒸した柔らかいものを出す。客をよく観察し、細部まで心を配る。
仕事に対する姿勢の原点は、寿司職人になりたての頃にある。握り方が早かった髙橋さんに修業先の大将が尋ねた。「寿司に『思い』はこもっているのか。両親にその寿司を出せるのか」。ハッとさせられた。差し出す皿の真ん中から、寿司はわずかにずれていた。周囲には米粒も付いていた。素人目にも雑な仕事だった。寿司は素手でつくり素手で食べる食べ物。気持ちのこもっていない寿司が、美味しいはずがない。
28歳の若さで寿司店をオープンさせ、3店舗を構えるまでになった。順風満帆な寿司職人人生に思えるが、人知れず眉間に皺を寄せて過ごす日々だった。店が大きくなり、従業員が増えたことで強まったのは雇う責任とプレッシャー。無意識のうちに経営を重視し、客一人一人に思いをはせる余裕を失った。
2011年3月に発生した東日本大震災。津波で店は水を被り、営業できない日々が続いた。半年間、売り上げはゼロ。再開するにあたって店の在り方を改めて考え、一人一人の客を大切にするという初心に立ち返った。同年9月、被害が比較的小さかった1店に暖簾を出した。
▲寿司を差し出す髙橋さん。店では四季折々の旬なネタが楽しめる。
いいことがあった日や、贅沢をしたい気分のときにわざわざ来てくれる客を笑顔にしたい。「食べる人の顔が見えるからこそ、思いをこめた寿司を握ることができるよね」晴れ晴れとした表情で語った。客にとっての楽しい時間に花を添え、思い出を彩る寿司屋でありたい。
寿司を握れる喜びを噛み締め、額に鉢巻きをキュッと締める。にこりと客に向かう高橋さんの目尻には、今日も皺が刻まれていく。
取材後記
記事執筆にあたり 、指示語や一人称の処理など、通常文章を書く際には特段意識しない点 を何度も考えさせられた。これから私が文章 を書くとき、思っていることや感じたことを言語化し、どういった表現でアウトプットすればよいか。まだまだ勉強不足ではあるが簡単な土台を作ることができた。 今回インターンに参加してただ終わり、ではなく質の高い文章の構成や表現から学べるものを学んでインプットの量を増やすこと。 さらに感じたことを丁寧にアウトプットしていくことを続けていきたい。
取材協力
文・写真
河北新報社インターンシップ14期A班
明治大学2年 成田峻平
この記事を書いた人
- 一般社団法人ワカツクと河北新報社が主催するインターンシッププログラム「記者と駆けるインターン」。学生たちがチームを組んで、仙台の中小企業や団体を取材した記事を紹介します。ときに励まし合い、ときにぶつかりながら、チームで協力して取り組んだ“軌跡”をお楽しみに♪
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