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花山地区と学生の架け橋に。「地域で活動したい」思いも応援します!

菅野 智佐 菅野 智佐
768 views 2016.12.01

阿部幹司さん(44) 株式会社花山サンゼット

仙台駅から約1時間。高速バスに揺られて秋田県との県境、栗原市花山地区(旧栗原郡花山村)へ。目の前には緑豊かな自然が広がり、美しい花山湖のほとりに大きな平屋が見えてきました。今回お話をうかがう阿部幹司さん(44)が代表取締役を務める株式会社花山サンゼットが指定管理者として運営を請け負う特産品販売施設、「湖畔のみせ 旬彩」です。カフェでは阿部さんの奥さんも一緒に働いています。
5年前、花山へ移住。今では地域の人たちと大学生をつなぎ、新しいものを生み出し続けています。
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▲旬彩からは花山の自然が一望できます

大学生と共に発見!花山の新たな特産品

花山サンゼットは、太陽光発電所の保守・管理や農林業を通した花山の特産品の6次化、カフェの経営を手掛けています。現在、6次化をはじめとする地域の資源発掘に携わる大学生インターンを積極的に受け入れています。
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▲和テイストの可愛らしい旬彩の店内

カフェ「湖畔のみせ 旬彩」は、「大学生と地域が交わる場を作りたかった」という思いを形にしたもの。栗原市が経営する特産物を販売するお店だったものを譲り受け、2016年4月にオープンしました。インターン生も店員としておもてなしをする花山の憩いの場であり、最近では遠くから足を運んでくれる人も増えました。

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▲大人気の花山プレート。地元のお母さん手作りのこんにゃくといった花山の美味しさが詰まっています。

旬彩のメニューにもある大根を揚げた「揚げこん」は、阿部さんとインターン生たちが企画して、約1年かけて試作を繰り返し、商品化しました。
開発のきっかけはインターンに来た大学生たちの地域への客観的な視点。
「花山の大根の特徴は味が染み込みやすく煮崩れしにくいところ。各家庭で自分たちの食用にと栽培をしていますが、予想より多く収穫でき食べきれないこともあるということに目をつけました」阿部さんはいいます。
柔らかく煮た大根に米粉をまぶし、揚げてみたところ大学生たちから食べやすく、おやつやおかず、おつまみにもピッタリと大好評!大根が6次商品化の材料として名乗りを上げた瞬間でした。大根を揚げるから「揚げこん」と名付け、現在は大学生たちと共に販路拡大を進めています。10月21日には仙台でお披露目イベントを開催し、販売を開始しました。

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▲ご当地ソースをかけて食べる揚げこん。花山産バジルとマヨネーズを組み合わせたソースは絶品(写真提供:花山サンゼット)

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▲揚げこんお披露目イベントでも大学生たちに大好評!

花山への移住で「思い」と「経験」が結びつく

阿部さんは、地元仙台の高校を卒業後、サラリーマンとして横浜で働くも、自分の得意分野がなかなか見つけられなかったといいます。25歳の時、子どもと関わる仕事を通して保育を学びたいと思うように。28歳で専門学校へ入学し、31歳から保育士として働いた後、仙台で保育園を開園しました。
東日本大震災が発生し、食べ物やガソリンがないという状況の中で、阿部さんは考えたといいます。「子どもたちの将来を考えた時に食やエネルギーを消費するだけの側ではなく生産する側にも関わりたい」。
漠然と抱いていた里山で暮らしたいという思いにも後押しされ、保育園を譲り渡し、家族を避難先の山形県最上町に残して2011年7月、地域おこし協力隊の制度で花山に単身で移住しました。
花山は、家族が住む場所から一番近いという理由で選んだため、知り合いはゼロ。地域の人たちに自分の存在を知ってもらわなければと考えました。まずはできることからと、力仕事やイベントの事務局、保育士としての経験も活かし自然の家でボランティアを行いました。
その奮闘ぶりを見ていた人たちが、花山での協力者を紹介してくれたそう。
さらに、阿部さんの家族が移住してきたことが大きな変化を生みます。本気で花山に向き合いたいと思っていることが伝わり、地域の人たちとの距離がグッと縮まりました。「よそ者である私たちを温かく受け入れてくれた花山の人たちの優しさと、環境が変わることを楽しいと応援してくれた妻のおかげですね。感謝しています」と阿部さんは話します。

地域の人たちと話す機会が増え、一人ひとりの考えを聞くことで、花山を多面的に見ることができたといいます。保育や教育に関わってきた経験から芸能人や落語家を学校に呼んだり、外国語指導助手による英会話教室を旬彩で開催し開いたり、ボランティアによる書道教室などを開催しました。「喜んでもらえたことが花山で活動していく自信に繋がっていきました」。

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▲旬彩には先日行われた書道教室の作品が。

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▲お互いを尊重し、支え合う素敵なお二人です。

地域に関わる仕事の楽しさを知ってほしい!

「自分は花山の人たちと若者の間に立つ通訳のような役割になっているんじゃないかなあ。まるで花山の中間管理職だね」笑いながら阿部さんはいいます。
初めて花山に来た時に地域の人と自分を繋ぎ、助けてくれた人がいたように、これからは、移住を考える人たちのサポートや後押しをしていきたいと考えています。
また、花山に暮らす一人一人のスキルを見出し、生かせる環境づくりをしていきたいとも。
花山サンゼットが地域や環境に貢献できるように、間もなく稼働も増える太陽光発電から得た収益を投下すべく、「揚げこん」をはじめとした農産品の可能性を探っています。「ベジタリアンも含めた世界中のあらゆる年代の人たちが食べることが出来るという強みや、仙台空港に台湾の格安航空会社が就航するというチャンスを生かして、海外の人達にも知ってもらうことが目標。また、揚げこんにかけるご当地ソースをきっかけにして、地域同士を繋ぐことができるんじゃないか」と嬉しそうに話してくれました。
「インターンやボランティアとして大学生を今後も受け入れ、花山サンゼットでの活動を通して地域に関わる魅力を知ってもらえたらと思います。今まで関わってくれた大学生たちが例え花山という場所でなくとも、将来それぞれの場所で地域の問題の解決に関わってくれたら…と想像するだけでワクワクしますね」。

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失敗や後悔は人としての厚みになる

これから地域のためになにかしたいという学生には、「最初から成功しなくたっていいんだよ」と言いたい。決断して行動することが大事だから。経験しないと何も得られないし、頭で考えても何も出来ない。失敗や後悔をすることはあるけれど、全て人としての厚みとなっていくものなので怖がらずに行動してみてください。
地域には皆さんがヒーロー、ヒロインになれるチャンスが沢山あるんです。
自分の得意なこと、好きなことを生かすことで仕事と思っていなかったことが仕事になってくる、生み出すことが出来ます。なにか地域に関わってみたいという人はお手伝いやボランティアから始めてみてください。いつでも喜んで相談に乗りますよ!

大学に入って暮らし始めたことで大好きになった山形で働きたい、いずれは起業をしたいと思っていた私。阿部さんが辿ってきたプロセスを知ったことで、地域で自分の強みを生かして働くという具体的なイメージを持つことができました。県外出身だからこそ、客観的な目で地域を見渡すことが出来るという強みに加えて自分の長所を生かせるのではないかと気づきました。地域において若者の力が必要とされていることや、実際に生かされているということも知り、私にもなにか行動を起こすことができそう……とワクワクしてきました。
「出会いとあいさつをとても大切にしている」という阿部さん。お会いした方とは名刺交換だけで終わらせずに、お礼のハガキを書いています。このような素敵な心掛けや優しい人柄だからこそ、花山で沢山の繋がりを生むことが出来ているのだと納得しました。
揚げこんの魅力が広まることを願いながら、出会いを大切に、自分らしい働き方を探していきたいです!

菅野 智佐菅野 智佐山形大学(執筆当時)
取材協力:花山サンゼット
文章・写真:菅野智佐(山形大学3年)
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この記事を書いた人

菅野 智佐
菅野 智佐
生粋の田舎娘、‘すげのちさ’ と読みます。仙台は都会ですね。よく迷子になります(いつもか)。グーグルマップが手放せません。でも地図を読むのが苦手なので使いこなせない…。笑 こんな私ですが、読者の皆さんを取材現場に連れて行くことが出来るような記事を書いていきたいです!