自動車整備工業団地のネットワークを活かして私たちのカーライフを支える「朝比奈商会」
朝比奈商会ってこんな会社
仙台市の東部に、トラックなどの大型車両が頻繁に行き交う「仙台自動車整備工業団地」があります。ここには住宅や商店はほとんどありませんが、車検から板金、重整備など、車に関するさまざまな整備・修理を行う会社が20 社ほど集まっており、軽自動車から超大型重機まですべての車輌のメンテナンスに対応しています。そんな中で自動車ガラスを専門的に取り扱っているのが今回取材した有限会社 朝比奈商会です。
朝比奈商会は、個人やディーラー・整備工場から依頼を受け、高速道路などで飛び石によってフロントガラスにヒビが入ったり、キズがついたりした車の修理を行っています。他にも、ガラスにフィルムを貼ってUV カットを施したり、ガラスを交換する作業もあります。作業は7名の現場職の従業員が行います。個人で車を持ち込む人は全体の1 割〜2 割で、多くがディーラーや整備工場からの発注です。
▲フロントガラスの交換作業を行っているところ
経験が物を言う緻密で正確な作業
朝比奈商会では一年に1000枚以上のガラスを施工します。車によってガラスの付き方が違うため、モデルチェンジに適応しながら作業をしなければならない点が大変だそうです。最近の自動車はガラスにブレーキセンサーなどがついている場合が多くなってきているため、もしガラスの付け方を間違えてしまうとセンサーがうまく反応しなくなったり、誤作動を起こしたりします。従業員は、ディーラーから受け取った各車の仕様についての情報を、しっかりと共有し、注意深く作業をしていきます。
▲これから修理を行うために、ガラスを取り外した乗用車。
朝比奈商会は仙台市営バスの施工も行っていますが、車体が大きくなればなるほど施工が難しくなるとのこと。こうした仕事では経験が物を言います。長年培った経験により、正確な作業をすることが可能になります。
ガラス整備には国家資格などはありませんが、全国組織の業界組合で独自に試験を取り入れており、社員は必要に応じてこれを受験するそうです。新入社員への研修は2 日くらいで一般的なことを学び、あとは3 年くらいかけて実技を学んでいきます。実践的な技術が何よりも重要なガラス整備の仕事は、習うよりも慣れることで身につけていくものなのだそうです。
従業員のみなさんがそれまでの経験を糧にして難しい緻密な作業をこなしていく現場。まさにプロの仕事です。
▲大型トラック。取材中にちょうど施工が終わり、ピカピカのガラスに生まれ変わりました。
ゼロから長い年月を共にした絆に支えられる、信頼のネットワーク
今回、取材に応じてくださった朝比奈徹さんは朝比奈商会の3 代目社長。徹さんのおじいさんが、終戦後の1947~48 年頃に、仙台空襲で燃えなかった立町の一角で会社を始めました。当時、同じように市街地で創業した自動車関連の会社は数多かったそうです。
▲創業者の朝比奈守男さん
この頃、空襲で焼け野原になった仙台の復興に向けて、市は中心街路の一つとして広瀬通を設定しました。これにより、広瀬通は仙台でも有数の交通量が多い道路になり、やがて立町は住宅街として発展していきました。すると、自動車関連工場の騒音が問題になるようになり、1960 年代、付近への騒音対策のために自動車関連会社で組合を立ち上げて集団で現在の場所へ移転。「仙台自動車整備工業団地」を作りました。現在、自動車整備工業団地がある宮城野区扇町は、当時は田んぼしかない場所だったため、電気や水道を自分たちで引くところから始めて、みんなで工業団地を作り上げたそうです。
▲自動車整備工業団地ができたばかりの頃。周りの黒いところはすべて田んぼです。
▲創業当時、自動車整備工業団地に集まっていた会社。朝比奈商会は右上の十字路のところにあります。
たくさんの自動車関係の会社が一か所に集まっていますが、それぞれの会社で取り扱うものが違っているため、顧客の取り合いにはならなかったそうです。むしろ、そのネットワークを活かして、地域の様々なニーズに対応し、自動車整備工業団地が一丸となって仙台の車社会を支えてきました。工業団地の設立から60年以上が経過した今でも、各社はお互いに密に連絡を取り合って顧客のニーズに応えられる体制を作り上げています。
朝比奈商会でも、専門とするガラス修理の範囲を超えた仕事を引き受けることがあります。ここ数年で、特に印象深かったのは大型バスの雨漏りの修理だったそうです。「他の会社では受け入れてもらえなかった」というお客様の話を聞き、修理を受けました。ガラス以外の部分でも、社内でできるところまでは応急処置を行い、手に負えない部分については、自動車整備工業団地の仲間に連絡を取り合って修理をしました。このような仕事をしたときは大きなやりがいを感じるそうです。長く続く工業団地のネットワークを活かせば、様々なケースに対応することができる。こうした強みを活かして、地元の信頼を勝ち得ているのですね。
▲お話しをしてくださった朝比奈徹さん
よりよい環境と社会を実現するため、多様な価値観に触れて人とのつながりを作る
朝比奈社長に今後の展望をお聞きしたところ、これまでよりももっと環境や社会を良くしていくための取り組みをしていきたいそうです。そのために、まずはガラスをできるだけ廃棄にしない方法を考えているとのこと。ガラスは生産・廃棄処理ともにコストがかかるため、ガラス自体の強度を高くすることも重要であり、また、ガラスをリサイクルすることができれば、仕入れ値や施工費を抑えることが可能になります。廃棄処理をしなくなれば処理場も少なくなり、環境にも良くなります。これだけ自動車が増えた社会で、環境への配慮は業界全体として避けられない課題になっており、仙台自動車整備工業団地も「環境にやさしい技術」を掲げています。朝比奈商会も、全体の中での役割をしっかりと果たすため、新たな挑戦を続けているのですね。
▲これから廃棄処理するガラス。ガラスの廃棄には多くのコストがかかるとのこと。
中小企業で働く人たちは、少しでも社会を良くしていきたいという気持ちがある人が多いそうです。そのためにはまず社内の雰囲気を良くしなくてはいけないと、朝比奈社長は考えています。また、自動車整備工業団地のネットワークに象徴されるように、さまざまなニーズに対応できる会社であるためには周囲とのつながりが大切です。朝比奈さん自身、積極的に様々な人と関わりたいということで今回の取材を受けてくださいました。多くの人と関わることでそれぞれの価値観に触れることができ、自身の考え方を広げるきっかけにもなります。私たち学生にも、多くの人に関わってほしいとのことでした。
この記事を書いた人
- 同じ名前の人に未だ出会ったことがない「あゆ」です。某水族館に行くとオイカワとアユが一緒の水槽で泳いでいます(笑)でも水槽ではなく、本屋さんかIKEAに住みたいです。しゃべるとギャップがあるらしいので、ぜひ引き出しを開けてみてください!
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