テラス

伝統を引き継ぐ決意「武田の笹かまぼこ」武田武士さん

歳桃 詩穂里 歳桃 詩穂里
701 views 2015.11.24

気合いを入れる「スイッチオン!」

11月10日の「いぐするテラス」は、塩竈市にある株式会社武田の笹かまぼこの代表取締役専務、武田武士さんにお話を伺いました。
「地元の水産業について知りたい」「身近な笹かまぼこについて知りたい」と仙台青葉学院短期大学や東北学院大学などの学生ら10名が参加しました。
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「みなさん、ちょっと立ってください」。緊張気味に座っている参加者たちをみて武田さんが声をかけます。「それでは僕に続いてお願いします。『スイッチオン!』」と親指を立てて「いいねサイン」。「スイッチオン!」声を大きくしたり、ひそひそ声になったりと数回繰り返していくうちに、こわばっていた参加者の表情が和らぎ笑顔が浮かんできます。「気に入ったら皆さんも使ってくださいね」。会場の雰囲気は一気に明るくなりました。

伝統を引き継ぐ決意

昭和10年に創業した武田の笹かまぼこは、現在、2代目の父の後を継ぎ、武田さん兄弟が経営しています。
本社は海にほど近い塩竃市港町。食事処やお土産販売、工場見学もできる観光施設になっています。宮城県産のゆずを使った「ゆず入り笹かま」など、10種類ものかまぼこを製造、販売しており、インターネットや百貨店でも買うことができます。
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▲パンフレットに紹介されているギフト商品

「3人兄弟の一番下ということもあり、父が経営していた会社は長男が後を継ぐと思っていた」と、武田さんは話します。
武田さんは高校卒業後、コピー機を販売する会社に就職し、営業を担当していました。営業の仕事は、ビルの最上階から1階まで一軒ずつ売り込みをして周ります。飛び込みのセールスは断られることも多く、大変だったこともありますが、社会のニーズを知るきっかけになりました。
営業を7年間経験して自信もついてきた頃、「親孝行したい」という気持ちが次第に強くなり「家業を継ごう」と決意し、武田の笹かまぼこに営業職として入社しました。会社に入ってからは10ある全ての部署で研修を受けることになりました。「一緒に働く人の気持ちを知った上でないと、何を言っても他の社員の心には響かない」という社長だった父の意向でした。

地域の人とスタッフに支えられて乗り越えた震災い

入社から2年後、営業部長に就任しました。自分だけが頑張ろうとしていて、仕事の知識がまだまだ足りないにもかかわらず周囲の意見が耳に入らなかったと武田さんは振り返ります。
2011年、東日本大震災が発生、津波により冷蔵器具が使えなくなり、震災3日後には社長である父が亡くなりました。立て続けに起こる困難に「とてもじゃないけれど復活できないと思った」と途方に暮れていたといいます。
「早く立て直ししましょうよ」。会社に集まり泥かきを始め意気込むスタッフのためにも、「ここで諦めるわけにはいかない」と、再建の道を模索、津波が来ていない2階の休憩スペースやお食事処を一時避難所として開放し、避難者を受け入れました。「また立ち上がるよう応援しているからね」と言ってくれる地元の住民、県内外から「早く笹かまぼこを食べたい」といった電話がありました。取引先からも、「再開するまでは商品の場所を開けて待っているから」など、声援も続々と届きました。「再建に向けて頑張ろうと思える希望だった。たくさんの支えがあったからこそ、商売が続けられると実感しました」と、武田さんは微笑みます。
スタッフの助けもあり、震災から3か月後の6月には営業再開。工場で焼きあがる笹かまぼこをみて、「涙が出るほどうれしかった」と話してくれました。
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震災前はより多くのお客さんに商品を手に取ってもらえるように、サイズが小さめのかまぼこの枚数を多めに入れた詰め合わせ商品を販売していました。
「自分たちが本当においしいと思うものだけを売ろう」。今までよりもさらにお客さんに喜んでもらえる商品にしたいと、かまぼこのサイズを大きくし、素材には最高級ランクのスケソウダラや地酒を使って丁寧に石臼で練り、ふんわりとしながら歯ごたえのある商品を作ります。値段は上がりましたがリピーターは震災前の10倍以上に増えたそう。「自分たちが食べて本当においしいと自信を持って勧められるものを作ればお客さんはついてきてくれる」と、確信したと言います。

「塩釜は素材が豊富で魅力のある街。素材を活かしてかまぼこの価値を高めたい。競争するのではなく、共同して頑張りたいです」。最近は特に同業他社との連携に力を入れ、かまぼこを詰め合わせるギフト商品を販売しています。自社が苦手としていることを、他社が補うことにより、相乗効果を生み出せると考えているそう。「人や地域を好きになることが大切。そのためにもまず、こちらから自分が相手を好きになること」と武田さんは話してくれました。

参加者からの質問

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武田さんは、「愛される会社になるためにどのような工夫をしてきましたか?」と参加者に聞かれると、「会社で働く人はもちろん、地域を愛すること」と答えてくれました。代表になり宮城県中小企業家同友会が企画した「経営指針を創る会」に参加するまでは上手くコミュニケーションが取れないこともあったといいます。「好き嫌いは相手に伝わるもの。こちらが好きになれば相手にも思いは伝わります」。
「屁理屈などを言う人にはどう対応しますか?」という質問には、「相手を思うからこそ注意をする」といいます。「筋の通らない理屈を言うから関わらない、注意しないのではなく、『本気で相手と向き合うこと」が大切」と武田さん。「会社は経営者一人でやっていけるものではありません。だからこそ、従業員を大切にしていきたいです」。

取材を終えて

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私は武田さんの話を聞くまで、地元塩釜市のかまぼこ会社の経営者から話を伺ったことがなく、「地元塩釜市で働く人から見る塩釜の良さはなんだろう」と思っていました。ですが、聞いてみると、「塩釜市の魅力は、素材の多さと、地元住民により支えられて震災からの復旧を果たした」とあり、塩釜に住んでいて知らないことだったので驚きでした。学生から見る塩釜市と、経営者から見る塩釜市への視点は全く異なると実感しました。今後は、「学生」からの視点とは違った視点で物事を見ていきたいです。

文章:歳桃詩穂里(東北学院大学 3年)
写真:歳桃詩穂里(東北学院大学 3年)、安部静香(いぐする仙台)

いぐするテラス参加者の感想

仙台青葉学院短期大学 大内七海 さん

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旅行会社とタイアップした観光産業や、笹かまのことだけでなく塩釜のことも知ることができる施設は、武田の笹かまぼこならではの強みだと感じました。
また、震災を経験し、地域の方や観光を通した全国各地からの後押しや応援の声を受けて、より地域に貢献しようと思ったそうです。そのような気持ちから宮城のゆずを使った笹かまぼこが生まれたとお聞きしました。県民も知らないような隠れた名産を使っていることに、こだわりを感じました。地元をことを真剣に考えているからこそ出来ることだと思います。
これまで漠然と自分の知らない土地(県外)で仕事をしてみたい思いがありましたが、武田さんのお話を聞き、自分の地元の良さを多くの人に知ってもらいたいと考えが変わりました。地域の人からは当たり前と思われている良いところを発信して、地元を盛り上げられるような仕事がしたいです。そのためにこれからはボランティアや地域活動に積極的に関わっていき、地元のことをより知っていきます。

仙台青葉学院短期大学 N.Nさん

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私は笹かまぼこをよくお土産や自分用に買っていました。以前から製造に興味があり、どのようなことを心掛けてお仕事をしているのか、詳しくお話を聞けることを期待し参加しました。
武田の笹かまぼこは、輸入の魚でなく宮城の魚を使用するなど、自信をもって販売しているとお話していました。お客様に喜んで商品を買っていただきたいという強い思いが伝わってきました。地元の食材を使用し、お客様に商品を納得して買っていただきたいとお話を聞き、地元もお客様も大切にしながらお仕事をしているところが印象に残っています。
今回のお話を通して、私は人を笑顔にし、宮城の力になれる職場で働きたいと感じました。武田さんの言葉では「ありがとうと言われて嫌な人はいない」というお話が心に残っています。私もありがとうと言われるのはとても嬉しく、元気がでると共感したからです。お客様の笑顔をみるためには、製造や販売に関わっている人の努力があることが改めて分かることが出来ました。就職をしたらお客様を喜ばせるようなお仕事をし、職場で周りから頼られるような人になりたいです。

仙台青葉学院短期大学 千葉こずえさん

武田さんのお店は、地元のお菓子屋さんのお菓子を一緒に置いたり、輸入の安い魚ではなく地元の魚屋さんから仕入れた魚でかまぼこを作っています。地域も他のお店も元気になるように、との考えだそうです。自分のお店の利益だけでなくその地域にある他のお店の事まで考える武田さんは、塩釜全体の発展を考えていてなかなか出来ることではないと思いました。
武田さんの「地元に恩返しがしたい」という言葉が印象に残っています。地元である塩釜が好きだから地域のために考えて行動でき、だからこそ沢山のお客様と地域に愛される商品が作り出せるのだと思います。今までの私は、どんな会社でこの様に働きたいというイメージがうまく描けませんでした。武田さんのお話を聞き、「お客さまをはじめ地域からも愛されるような会社に就職したい」、また「ここで働いていて良かったと誇りを持ち働きたい」と思いました。
直接経営者の方からお話が聞ける機会には自分から進んで参加し、「ここで働きたい!」と思える会社を見つけていきたいと思います。今回のいぐするテラスで今までイメージ出来なかった理想の働く姿ができ、参加してよかったです。

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この記事を書いた人

歳桃 詩穂里
歳桃 詩穂里
東北学院大学(執筆当時)