宮城の技術が日本の研究を支える!「工藤電機」
私が自分の研究を進める上でよくお世話になっている電源は宮城県の会社でつくっているようです!どんな人がどのようにつくっているのだろうか?多くのワクワクと一緒に、取材してきました。
工藤電機ってこんな会社
場所は、名取市飯野坂。JR名取駅から徒歩20分の、国道4号線沿い、多くの大型店舗や工場が立ち並ぶ区域の一画に工藤電機株式会社の工場があります。
本社は仙台市太白区西多賀にあり、創業は昭和31年、今年でおよそ60年目。工藤電機では、主に特注で電源の設計、組立、納品、そしてメンテナンスを行っています。
従業員数40人、うち技術系の社員は32人。全員が工場で設計や製造の仕事をしています。創業者は現在取締役会長である、工藤治夫さん。幼少期から「あるもので何かをつくろう!」という電気少年だった工藤さんは、その貪欲な探究心で様々なモノづくりを経験していき、電源を製造する工藤電機を立ち上げました。一般的に発電所や充電器など、電力を供給するものは全て「電源」です。電力を、装置にとって都合の良い形や大きさに変換します。工藤電機の電源は、ほとんどが目的に応じて作られる特注品。科学技術の研究に使われることが多いそうです。研究において原子レベルの高精度な情報を得るために必要なのが、放射光と呼ばれる光。高いエネルギーを持ち、ごく微小な領域の情報も高い精度で得ることが出来る、優れものです。
放射光は、加速した電子を電磁石で曲げることで発生させます。電磁石には、安定して電流を供給するために工藤電機の電源が使われます。
安定した電流を生み出す技術
「工藤電機で製造する電源の大きな特徴は、なんといっても世界に誇る『安定度』なんです」と、工藤さん。
高い安定度の電源をつくるために必要なのは、微小な電流をも逃さずとらえて(計測)、目的の電流値からの変動を小さく抑える(制御)、という技術です。「100万分の1桁目までの細かい電流値まで計測、制御できる技術は、非常に優れています」。他にも設計や組み立て現場の温度管理や雑音を拾いにくい配線技術など、特注の電源を製造するために多くのノウハウを注ぎ込んでいます。
取引先は、研究機関や企業の研究所。加速器科学の最先端技術の開発に活用されている他、医療機器の電源としても使われています。研究領域や場所、操作する人、その他要望に応じて32人の技術系社員が開発から設計、製造しています。
工藤電機の経営理念は、「よりダイナミックで、さらにシビアーに!」。会社のロゴは、放射光、電子、磁石の計測と制御を表しています。より精密に(=シビアに)計測し、幅広い範囲に渡り(=ダイナミックに)制御するという意味です。「これが私たちの業務内容を端的に表しています」と工藤さんは言います。
▲http://www.kudo-denki.co.jp/index.htmlより
誠意をもって、徹底的なアフターケアを
特注でつくる電源の価格は、数十万円~数千万円。長期間使用される場合が多く、40年以上使われることも珍しくありません。3人いる営業職の一人、山代恭司さんは、「だからこそ社員は皆、お客様にとって使い勝手がよく、できるだけ長く使えるものにしなければという思いは強いです」と言います。技術系の社員はお客さんの希望に沿った仕様に極限まで近づけるよう努め、定期的にメンテナンスを行って部品の劣化や電源の動作の異常がないかなどを丁寧に調べます。そして営業の社員とも協力して、納品してからのお客様のフィードバックを集めることにも力を入れます。山代さんは、「技術力に加え、こうしたサービス面も評価されています」といいます。「メンテナンスの行き届いた工藤電機に製品を発注して良かったというお褒めの言葉や、またお願いしたいという希望を持ってもらえることは嬉しい」と語ります。また、業務での苦労として、このようなエピソードも。「お客さんの多くは公的機関のため、締めにあたる9月と3月は忙しくなります。また、多くの施設が装置をストップさせる8月にはメンテナンスの依頼が集中します。不在の社員が多くなるので打ち合わせも進めにくくなるんですよ」。
安定度に優れた電源を、もっと広い市場に
「工藤電機には様々な用途において重宝される技術の蓄積があると考えています。もっと多くの業界で使ってもらい、基礎研究だけでなく多くの産業の発展にも貢献していきたいです」と工藤さんは意気込んでいます。現在の取引先は、主に放射光を使う研究所や企業などの限られた業界です。
他の業界へも販路を広げるために、カタログ製品である「SP電源」を開発しました。特注品に比べるとやや精度は劣りますが、工藤電機が誇る技術を駆使した製品となっています。「電源の販売市場を広げるだけでなく、特注品が多いために定期的な注文と安定した収益が上がらない現状を改善できるのでは」と期待しています。
更なる高みを目指す、技術開発への挑戦は続いています。
工藤電機が現在製造している電源も、一定量のエネルギーが熱として失われていますが、熱損失を一層減らすことによって、更なる電源の安定化や電力効率の向上につながります。熱の損失が減り、効率的に電力が使えることで蓄えられた少ないエネルギーで駆動できる可能性が高くなるとか。工藤さんは「将来的には、私たちの身の回りにあふれている自然エネルギーで、我々の大型電源が駆動できるようにしたいですね。必ずや30-40年の間に実現できるはずです」と強い希望と決意を語ってくれました。
地元宮城生まれの技術によって、ナノテクノロジーをはじめとする多くの研究活動が出来ていることを知り、率直にとても感動しました。私が大学の研究活動で何気なく使っていた、目には見えない微小領域の、ごくわずかな変化を捉える放射光は、安定した電源の賜物だったのですね。
ものを一からつくるのは、とても大変なことだと思います。誰が何のために使うの?どんな性能が必要?それを実現するためにはどんな条件が必要?そのための材料は?などなど…。私も研究において、計画を立てては失敗し、再度練り直して実行して、という繰り返しで、よくめげそうになりますが、工藤電機に負けずに、地道な積み重ねで少しでも前進できるよう、最善を尽くしていきたいと思いました。
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