学生記者がお仕事の魅力を発見!仙台イケてる会社訪問
イケ社

お客さんでもある研究者と、議論と実験を重ね新素材開発に貢献「真壁技研」

長谷川美佳 長谷川美佳
1,589 views 2015.12.25
長谷川美佳 長谷川美佳 東北大学修士(執筆当時)
大学で私が研究しているのは、鉛筆の芯に含まれている、グラフェンという物質。電子機器をつくるための材料になる素材を高品質につくることが出来たら、パソコンやスマホは今の100倍くらいの速度で動作し、省エネにも繋がります。こうした素材をつくるには、研究開発用の装置を使って「加熱」したり、「冷却」したり、「化学反応」させたりと、色々な工程が必要です。研究開発に使われる装置をつくっている会社が宮城にあるそうです!どんな技術でどんなものをつくっているのでしょうか?

真壁技研ってこんな会社

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訪れたのは、仙台市宮城野区苦竹。仙台駅からJR仙石線で約10分のJR苦竹駅から国道45号線沿いに歩くこと10分、多くの大型店舗や工場が並ぶ区域に「新素材開発用研究装置」を開発、製造している株式会社真壁技研の本社兼工場があります。従業員は18人。創業は大正8年、今年でおよそ100年になります。

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▲代表取締役の真壁英一さん

代表取締役である真壁英一さんの祖父が自転車の修理屋として開業した後、時代のニーズに対応して真壁さんの父、平一郎さんが鉄鋼所を始めました。平一郎さんは東北大学金属材料研究所(以下、東北大金研)の技官でもありました。研究活動に必要な治具などの機材を依頼に応じて製作していたことが現在、主としている2つの事業に繋がっています。一つは、新素材をつくるための装置の開発。真空技術、温度制御、運動機構の3要素を基本に、お客さんのニーズに合った最適な装置を製造します。主力製品は急冷装置で、昭和60年頃に東北大金研でアモルファスが注目されたことにより開発に至りました。もう一つの事業は、実験用の新素材の作製及び提供。自社開発した装置を使って素材のサンプルをつくり、評価先であるお客さんに提供します。
元々鉄鋼メーカーだったことや、東北大金研との密接な繋がりがあったことで、金属材料関連の業務が比較的多いことが特徴です。
真壁技研の経営理念は、「科学性、人間性、社会性」。「会社で開発する装置や素材は、あらゆるエネルギーの源である太陽の恵みを基に作られています。地球環境を守ることやそこに暮らす人間、地域がより良い方向へ向かうことに貢献する事業にしたいという思いが込められています」と真壁さんは教えてくれました。

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仙台の企業魅力

研究者の口コミが広げた海外との取引

真壁技研には国内だけでなく、海外からも多くの注文が入ります。
これまで中国やサウジアラビアの研究者からの引き合いもあったそう。中国には合弁会社を設立し、素材の量産装置を納品、大量消費財の供給の一端を担っています。宮城県では東北大学、他にも関東や関西の大学や研究機関から装置や素材開発の依頼があります。
国内外の取引先は、これまでの仕事を通して得た信頼に基づく再依頼や口コミによって広がってきました。大学の研究者らによる学会発表を通じて知った素材開発に取り組む研究機関からや、元々取引のあった研究者が研究拠点を移した際に引き続き依頼されることが多いといいます。「業務は年々高度なことを求められていきます。その都度、試行錯誤を重ねてお客さんの期待に最大限応えていくことで、信頼を積み重ねてきたと思っています」と真壁さんは誇らしげに語ってくれました。

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「お客さん=共同研究者」と共に深く考え、実験し、世界初の新素材開発へ

「会社の技術力は大学に育ててもらったようなもの」と真壁さんはいいます。真壁技研の主力商品である急冷装置の開発につながった、アモルファス金属の作製は現在も続いています。アモルファス金属は2000℃程度の高温で溶融した金属を急激に冷やしてつくります。通常の金属は決められた結晶性を持ち、金属原子が規則的に配列していますが、アモルファス金属は原子配列の規則性がある程度ランダムになっています。通常の金属とは異なる優れた特性をもつことがあり、モーターやハードディスクなどへの応用が期待されているそう。製品開発チームの福田泰行さんは「1秒で1000℃以上冷却するプロセスは一瞬の現象。高速カメラ、サーモグラフィーなどを用いて、一瞬のプロセスでの温度や結晶の分布、変化を捉え、最適条件を見出そうと努めています」と語ります。

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▲製品開発チームの福田泰行さん。入社1年目

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▲真壁技研の急冷装置の一つ。

真壁さんは「お客さんに言われた通りに作業をするのではなく、より深いところまで理解することが大事」とも教えてくれました。以前までは、素材開発のプロセスのみを追っていましたが、材料そのもののこともきちんと理解することでより一層の品質改善に対して、研究者と一緒に取り組むようになったそう。基本的な知識を勉強しながら、お客さんである研究者や会社の従業員と共に多くの議論と実験を重ねることで、納期と予算の範囲内で最善の結果を提供できるように努めています。また、大学の先生から、海外にこんな技術がある!という情報を聞き、それを開発しようとすることもあるといいます。製品開発チームの木立華香(きだちはるか)さんは新しい素材をつくる難しさについて、「分からないことが次々と出てきて大変。実験で起こった現象を基に、推測と基本的な科学を照らし合わせて検証していきます。真空や熱冷却など、毎日が勉強で、先輩社員から指導してもらうことも多いです」と語ってくれました。

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▲製品開発チームの木立華香さん。入社1年目

素材開発を通して「さすが仙台!」と言われる貢献を目指す

真壁さんは地域とのつながりも重視しています。今年は週2回で3か月間、仙台高等専門学校から学生を受け入れ、課題解決型のインターンシップを行いました。テーマは、「アモルファス金属をいかに一般の人へPRするか」。
インターンシップ受け入れを担当している福田さんは、「色々な人たちに知ってもらうことは、新しい視点をつくることに繋がります。高専の学生さんに気づかせてもらうことも多いです」と教えてくれました。
研究に関わりのない一般の人にとって真壁技研の事業は、身近ではなく、どのような仕事をしているのか分かりにくいものです。「真壁技研は地元の大学を始めとする研究機関と共に技術力を磨いてきました。大学の知識資源と、地元の資源で素材研究が発展し、地域に根差していく手助けをしていきたいです」と真壁さんは言います。「そして、国内外への事業の拡大だけでなく、地域に根差した事業の発展をこれからも大切にし、『さすが仙台』と言われるように仙台発の材料つくりに貢献していきたいです」。

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真壁技研では、駆け出しの新素材から、実用間近の新素材まで、さまざまな段階の素材開発に取り組んでいて、試行錯誤の繰り返しの一つ一つが新素材の実現につながるのだと思った。素材研究に限らず、地道な積み重ねが実を結ぶことが本当にあって、それを信じて努力する人たちと出会えて、勇気をもらえた気がしました。
素材開発の上で大変なことは?という質問に対して、木立さんがおっしゃっていた「分からないことが多くて大変!」という言葉に、とても共感しました。目では見えない領域を考察するのは難しい!私の研究対象であるグラフェンも、ちょっとした温度や化学反応させる原料の量、装置の設定の違いによって出来たりできなかったり、品質が大きく変わったり…。実験結果と科学的事実を照らし合わせて、どんな現象が起こっているかを推測し、それを基に条件を考え出すことが重要だと改めて思いました。品質の良い素材を作製するための要素は膨大にあり、ただ何となく条件を振ることは最適条件に近づく上で大きく遠回りすることになります。真壁さんのおっしゃっていた「深く理解することの大切さ」は本当にその通りだと思いました。

長谷川美佳長谷川美佳東北大学修士(執筆当時)
文章:長谷川美佳(東北大学修士2年)
写真:鎌田尭(東北学院大学4年) 写真提供:株式会社真壁技研
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株式会社 真壁技研
http://makabe-g.co.jp/