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仙台をワクワクが溢れる街に!旅を支えるゲストハウス運営

鈴木里緒 鈴木里緒
2,107 views 2015.09.15

加賀真輝さん(33) ゲストハウス梅鉢 オーナー

ゲストハウスを通して広がる「繋がりの輪」

「今日はスイカをみんなで食べようよ!」
加賀さんの一声に「わっ」と歓声が上がり、宿泊客が一斉に交流スペースへ集まります。

「趣味は?」「将来どんなことがしたいの?」
加賀さんはゲストと積極的にコミュニケーションを取ります。海外からの宿泊客に対しても、筆談やボディーランゲージを交えながら、言葉の壁をものともせずに接していきます。

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加賀真輝さんが経営する「ゲストハウス梅鉢」はJR苦竹駅から徒歩5分。商店街通りから伸びる細い裏路地に入っていくと、閑静な住宅街の中に黒を基調とした現代的な建物が現れます。

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「梅鉢」という名前は、加賀さんの家紋である「加賀梅鉢」からとりました。

ゲストハウスとは、ドミトリーと呼ばれる相部屋が中心で、比較的安価に宿泊できる、旅行者向けの宿泊施設です。
加賀さんは、「梅鉢」の経営を一手に担っているだけでなく、おかみの敬子さんとともに自らも現場に立ち、料理をふるまったり、宿泊客と交流したりしています。

「心に残る旅にしてほしい。だからこそ、他の宿泊客や地元の人との交流ができるゲストハウスの特色を生かして、普通のホテルに泊まっていては参加できないようなイベントやパーティをしたり、コミュニケーションの場を作ることを意識的にしています」。

「普段は知り合えない人と交流出来て、価値観の幅を広げることが出来る。梅鉢さんのおかげで素敵な旅になりました」と大阪府から来た女子大学生(22)は笑みを浮かべました。

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▲ 宿泊客がゲストハウスに滞在した際の感想や旅についての思いを綴る「梅鉢ノート」。梅鉢の歴史そのものです。

「梅鉢を通して、宮城や仙台の良さをより多くの人に伝えていきたいんです」と加賀さん。
そのために、定期的に宮城の各地に直接足を運び、地域をよくするために頑張っている人の話を聞いたり、宮城の魅力的な場所をリサーチしています。
「魅力的な現場の姿や、地域のために頑張っている人を自分の目で見て、聞いて、感じるからこそ、地域が何を求めていて、自分に何ができるかを初めて考えることが出来るんだと思います」と加賀さんは熱い思いを話します。

また、宮城、仙台を外から見る視点も大切にしている、とのこと。定期的に日本各地を車でまわり、それぞれの地域の姿を見ることで、客観的な目線を持つようにしています。
「今年、1か月かけて宮崎県まで日本をゆっくりまわってきました。他の地域から見た仙台、宮城はどんな感じなんだろう。いつも好奇心を持って旅をしています」。

自分の人生を大きく変えた「旅」で人々に還元していきたい

幼少期は、両親の仕事の関係で全国を転々とする生活をしていた加賀さん。「何度も転校を繰り返していたから、初対面の人とも自然と仲良くなれる性格が板についたのかも」と当時を振り返ります。

しかし、中学2年生の時に仙台に移住するものの、それまで住んでいた場所とのギャップの大きさになじめず、苦悩の日々を送ったそうです。
中学卒業後は、高校に進学せず、アルバイトをしながらバンド活動に没頭する日々。
転機は20歳頃にした一人旅でした。旅の移動手段はもっぱらヒッチハイク。時には野宿をしたり、車に乗せてもらった人の家に泊めてもらうこともありました。アルバイトでお金を貯めては一定期間日本中を旅する、という生活を続けていた加賀さんは、ある日、旅先で資金がなくなってしまうハプニングに見舞われます。でも、縁あって、京都にあるゲストハウスにて住み込みで働くことに。

「そのゲストハウスでの、ある外国人バックパッカーとの出会いが、僕の価値観を大きく変えてくれたんです」。
東南アジアからやってきたという男性(当時20代)は、生まれてからずっと貧しい生活を送っているのに、笑顔を絶やさず、いつも楽しげな様子で話をしてくれました。家族の話、幼少期から今までの自分の身の上話、旅の話……。

「それまでは、大学に進学したり、きちんとした職に就いたりして頑張っている同級生と、定職に就かず、宙ぶらりんな日々を送る自分を比べ、周囲から一人前の大人として認められていないというコンプレックスを感じていました。彼との出会いにより、幸せの定義、価値観というものがいい意味でひっくりかえりましたね」と加賀さんは振り返ります。

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その後、「多くの人にもっと旅の魅力を伝えたい」との思いで、ゲストハウスの開業を決心。
しかし、開業までの道のりは決して順調なものではありませんでした。
初めは、ゲストハウスを運営していく上で必要な法律を調べるところからスタート。建築士や、融資をしてくれる銀行の人など様々な人に、自分が創りたいゲストハウスについて思いを伝えるべく奔走しました。

「ゲストハウスは他の宿泊施設と比べて、オーナーの色が濃く出るんですよね。こういうゲストハウスにしよう、という考えは自分なりには描けていたのですが、なかなか自分の思いを人に上手く伝えることができず、苦労しました」と葛藤する日々が続きました。
紆余曲折はあったものの、準備に約3年をかけ、ついに「ゲストハウス梅鉢」を開業しました。

2011年8月のオープン以来、梅鉢にはこれまでに延べ15000人の宿泊客が訪れました。
「地位や肩書、国の違いだって、梅鉢に来れば、関係ない。ここにやってくる人みんなが、初対面でもフラットな目線で会話が出来る。かつて自分が思い描いていた場を宿泊客のみなさんと一緒に作っているんだ、ということを実感しています」と加賀さんは嬉しそうに話してくれました。

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▲梅鉢の交流スペース。夜になると宿泊客の笑い声がこだまする。宮城の地酒や世界各国のビールを味わうこともできる。

ゲストハウスの魅力で仙台の街を盛り上げていきたい

「初めて仙台を訪れた人に『こんな街に住みたい!』と思ってもらえるような街にしていきたいです」と加賀さんは白い歯を輝かせて笑います。

そのための取組みの一つとして、2015年の2月、梅鉢から歩いて5分ほどの所に、カフェ「Visitor Center and Cafe」を知人とともにはじめました。昼はカフェ、夜はバーに大変身。宿泊客はもちろん、地元の人も気軽に立ち寄ることができます。
「梅鉢ができてから、仙台でのゲストハウス文化が以前よりも浸透してきたとはいえ、宿泊するにはまだまだ敷居が高い面があります。カフェという形態をとることで、気軽に地元の人と宿泊客が交流を図れるようにしたいんです。」
このカフェで、宿泊客は地元の人の生の声で宮城や仙台の情報を集められ、地元の価値観に触れたり、より地域と密接に関わることができます。地元の人にとっても、宿泊客と交流することで様々な文化や価値観を知ることができ、刺激的な時間を過ごすことができます。

加賀さんは「これからも、ゲストハウスの経営を通して仙台の街をワクワクするような場所にしていきたいです」と今後に向けての思いを語ってくれました!

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世界は広い!今置かれている環境を全てだと思わないで

家と学校の往復の繰り返しという生活を送っていると、生活や思考パターンが凝り固まってしまいがちになります。そうならないためにも常に周囲に対してアンテナをはるのが大切、と加賀さんは教えてくれました。ゲストハウスの宿泊客の中には就活中の学生も少なくありません。内定がなかなか出ずに、思い詰めている学生さんもいるそうです。
「そんな時は周りを広く見渡してみること。すると、それまでとは違った価値観や気づきが生まれることもある。そのためにも是非『旅』をしてほしい」と加賀さんは言います。

「世界一周とか日本一周といった大それたものじゃなくてもいい。普段の帰り道とは違うルートを歩いてみたり、寄り道することから旅は始まっているんです」。

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取材をした日の夜、再び梅鉢を訪れた私を「おかえりなさい」と温かく迎え入れてくれた加賀さん。初対面にも関わらず気さくに話しかけてくれる宿泊客の方々。ゲストハウスというとどこか身構えてしまうようなイメージを持っていましたが、ほぼ初めての場所なのに、自分の家に帰ってきたかのようにリラックスできる雰囲気が「梅鉢」にはありました。
取材では、加賀さんの物事に対するまっすぐな姿勢が特に印象的でした。何にでも興味を持ち、自分の思いを形にし続けている。加賀さんの取材を通して「行動することの大切さ」を学びました。
「どうせ私なんかにできっこない」と頭から否定するのではなく、純粋に「やってみたい」という好奇心を持ち行動に移していくこと。そこから自分自身の旅は始まります。能動的に様々なことへ取り組んでいこうと、決意を新たにすることができました。
鈴木里緒鈴木里緒山形大学3年(執筆当時)
文章:鈴木里緒(山形大学3年)
写真:三浦紗樹(山形大学3年)、佐藤萌(東北大学2年)
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