仕事を思いっきり楽しむこと。広告とデザインで一人でも多くの人を笑顔に。
亀井美保さん(31) 株式会社一ノ蔵 マーケティング室
宮城の名酒「一ノ蔵」のヒットを支える社内デザイナー
宮城を代表する酒造メーカー「株式会社一ノ蔵」のマーケティング室に勤務する亀井美保さん(31)は入社9年目。マーケティング室の仕事は商品の広報や広告で、商品のラベルデザインから、チラシなどの販促物や新聞・雑誌に掲載する広告の作成、インターネットでの情報発信、各種イベントの企画・運営まで、社外に向けた情報やメッセージの発信を多岐にわたり行っています。
亀井さんはこのマーケティング室で、専門学校で学んだグラフィックデザインの知識を活かして社内デザイナーとして働いており、一年間に手がけるデザインは約40本にも上ります!
毎週のように締切に追われているそうですが、それでも「自分の夢だった仕事に就いて働くことができているので毎日が楽しいです」と笑顔を見せる亀井さん。「マーケティング室は、文章が得意な人、絵が上手な人、タスク管理が上手い人というように、それぞれが得意分野を持っていて、お互いを補いあう関係が出来上がっているので、困った時はいつでも声を掛けあいながら仕事をしています」とにっこり。
これまで数えきれない位の仕事をしてきたという亀井さん。「どんな色合いやレイアウトが売り場で映えるか、意識しながらデザインしています」。
何種類もあるお酒の特徴を的確に伝えながら、売り場で目を引くものにする。商品ラベルのデザインは、その商品を完成させるために欠かせないもの。そのために、日々試行錯誤を繰り返しているそうです。
▲亀井さんがデザインした商品ラベルの一部。これまでに手がけたデザインは数知れません。
これは、一ノ蔵の人気銘柄「ひゃっこい」のラベル。要冷蔵品で、紙のラベルだとふやけてしまうために透明のビニール製ラベルを使用するのですが、普段デザインを手掛けるラベルの多くは紙製。材質の違いがデザインする上での悩みを生んだそうです。
「半年以上かけてデザインを練りました。カラーチャートを使いながら、どの色が一番合うか、数十回も試してはボツになり、を繰り返していきました。この時は担当する商品で初めて『デザインコンペ』を行い、一ノ蔵の定番商品ということもあり失敗が許されなかったので、いつになく力が入りましたね」としみじみ。
これは亀井さんがいつも持ち歩いているというノート。商品デザインのラフ画やキャッチコピーの原案などがびっしり書き込まれたネタ帳は、マーケティング室に勤める亀井さんには欠かせない仕事道具です。
「何が一番伝えたいことなのか、私の考えた広告が実際に消費者にどのように伝わっていくのか、常にイメージして、気づいたことがあればすぐに書き留めています」。
普段から身の回りのものに目を向けているという亀井さん。日々の生活で養った想像力や観察眼が仕事に生かされているんですね!
憧れの仕事に就くことができた
「学校では図工や美術の授業は好きでしたが、『デザインの仕事をしたい』という明確な思いを初めから抱いていたわけではありませんでした」という亀井さん。転機は高校時代。進路指導室で、ある専門学校の卒業制作のパンフレットを見たことでした。
その中には卒業生たちの作品が紹介されており、特に印象的だったのが、映画「シザーハンズ」をモチーフにしたリメイクポスター。「デザインってすごい!」と感銘を受けたとのこと。その時から「私も自分の手掛けたデザインで人の心を動かせるようになりたい!」という夢を持つようになったそうです。
そんな思いを胸に、高校を卒業後、仙台のデザイン専門学校に入学し、グラフィックデザインを専攻。「専門学校時代は、毎日大量の課題に追われていました。すごく大変だったけれど、今になって思えば、この時期に、いろいろな仕事を並行して進めるコツを身につけることができたのだと思います」と当時を振り返ります。
専門学校卒業後は地元の書店に就職。書店では販売業務だけでなく、売り場で商品をPRするPOP作成をしたり、店長に了解をもらい、自身で作成したブックカバーの販売も行っていました。
「今考えると、書店時代に身につけたデザインのスキルや基本的なビジネスマナーが仕事に活きています」。
やりたいことを任せてくれる風通しのいい職場で仕事に対してやりがいを感じていた一方、亀井さんはデザインの仕事をする夢をあきらめきれずにいました。
高校時代からの夢を叶えるべく、22歳の時に転職活動を開始。ハローワークで偶然見つけたのが、一ノ蔵のマーケティング室員の募集でした。
「募集を見た瞬間『これだ!』と思いましたね。幸運なことに、自分の持っていたスキルと会社側が求める人材像がマッチしたこともあって、転職活動はすんなりといきました」と言います。
一ノ蔵入社後は、様々な失敗を重ねながらもデザインのスキルを活かし着実にキャリアを積み重ねていきます。そんな中、亀井さんに仕事をしていく上での大きな転機が訪れました。
デザインの力で、自分に出来ることをしていきたい
「震災を機に仕事への向き合い方が大きく変わりました」と言う亀井さん。
2011年に発生した東日本大震災では、亀井さん自身や実家は少ない被害で済んだものの、あまりのことに、しばらくの間は気分が落ち込む日々を過ごしていたそうです。そんな亀井さんを救ったのは、一ノ蔵のお客様からの励ましの言葉でした。
「当時私は、『お客様の広場』という、一ノ蔵ホームページ内でユーザーが感想を書き込めるインターネット掲示板の返信を担当していました。その掲示板に、震災直後から『がんばってください』『また一ノ蔵を飲めることを楽しみにしています』など多数の書き込みがあり、『こんなにたくさんの方々が一ノ蔵のお酒を待ってくれているんだ』と、とても心が救われたと同時に、言葉は「力」に変わることを身をもって体験したんです。それまでは、どちらかというと堅苦しく真面目に丁寧な返信をしていましたが、ひとりひとりのコメントに対して自分の想いをより丁寧に伝えるようになりました。」と力を込めます。
震災後担当したのは、「ハタチ基金」のチャリティ商品のデザインでした。
「ハタチ基金」とは、「東日本大震災時に0歳だった赤ちゃんが20歳になるまで」子どもたちへのサポート活動を継続して行うために設立された基金です。一ノ蔵では「皆様から賜ったご恩に少しでも報いたい」という想いから、報道ではなかなか表に出てこない困難な状況にある子どもたちを支援しようと、2011年の12月に「3.11未来へつなぐバトン」プロジェクトを発足。以後、2012年から毎年、対象商品の売り上げを、津波被害が甚大だった女川町や岩手県の大槌町で、子どもたちの学習指導や心のケアを行う「コラボ・スクール」の支援を行うNPOカタリバなどの運営費用として、全額寄付しています。
「震災という逆境にあっても、次世代を担う子どもたちに明るい未来を託していきたいとの思いを込め、マーケティング室みんなでアイディアを出し合い作成しました」と亀井さん。このデザインには、「一ノ蔵が受けた温かい支援を未来を担う子どもたちへ手渡そう」という意志が表現されており、対象商品は20年継続して発売することになっています。
また、亀井さんが2011年から2013年の間に手掛けた一ノ蔵の新聞広告は、3年連続で「仙台広告賞」の最優秀作品に選ばれました。
▲2012年「仙台広告大賞」金賞受賞作。
この広告は、一ノ蔵の主力商品である「ひやおろし」の販促用に制作されたもので、亀井さんがレイアウトデザイン全般を手がけました。「イラストがふんだんに盛り込まれた漫画風のレイアウトは、ひやおろしを知らない人でも製品のことを理解しやすい」と、消費者だけでなく実際に現場で営業をする社員にも評判だそうです。
広告の向こう側にいる人の立場になってデザインを世に生み出し続ける揺るぎない姿勢は、一ノ蔵を愛するユーザーの暖かい言葉に支えられ、亀井さんの中にしっかりと根付いているようです。
工夫次第で仕事は楽しくなる!
マーケティング室の主力社員として着実に実績を積んでいる亀井さんですが、実は二人の子どもを育てる「働くママ」でもあります。
亀井さんの勤務は朝から夕方までのフルタイム。会社の理解と両親のサポートもあり、仕事を続けることができているのだそう。
「仕事と子育て。確かに両立は大変だけど、私は仕事を『苦』と感じたことがないんです。私のデザインした広告や商品で笑顔になる人がいる。誰かの生活をより良いものにしているという実感があり、働きがいを感じています。仕事は人生の大半を占めるので、何より私自身が、できるだけ仕事を楽しいものにしていきたいという思いで毎日を過ごしています。また、家に帰れば子どもたちからパワーをもらえるので逆に良い活力になっています。それはもちろん周りのサポートがあってこそなので、たくさんの人に支えられていることと感謝の気持ちを忘れずにこれからも頑張りたいですね」と目を輝かせます。
これからの展望を尋ねると「1人でも多くの人に一ノ蔵を飲んで知ってもらいたい。お客様目線で一つ一つの仕事に真剣に取り組んでいきたいです。」という答えが返って来ました。
亀井さんの言葉の一つ一つから、物事に対して前向きに向き合う姿勢を持つことの大切さが伝わってくるようでした。
「色んな経験をして視野を広げることを学生のうちにしておけるといいですね。やりたいことが分からないからと何もしないのではなく、『とりあえずやってみよう』という好奇心から物事を見る目が広がります」とのこと。亀井さん自身、今までの経験に無駄な事は何一つなかったと言います。「回り道した事こともあったけれど、その先々での経験が今の仕事にとてもプラスになっていることは間違いないと言えます」と、穏やかながらも力強く語ってくださいました。
私は以前、飽きっぽく何事も長続きしないことで悩んでいましたが、「いぐする仙台」の取材活動を通して、普段は知ることのできない素敵な大人たちの考えに触れる楽しさを知り、「夢中」になれるものをようやく見つけたという喜びを噛みしめています。今後も、素敵な大人に出会って、その姿を伝え続けたい、と改めて感じることができました。
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