震災前以上の地域活性化を目指す「ヤフー株式会社」鈴木哲也さん
12月15日、いぐするテラス「中小企業ラボ」が開催されました。宮城を盛り上げるための活動をしているゲストが「地域に根差した中小企業のどういったところに面白さや魅力があるのか」を「働く」という切り口から話すイベントです。大学生を中心とした参加者は「地域で働く可能性や中小企業が果たす役割とは何か」について考えるきっかけになります。
今回のゲストはヤフー株式会社復興支援室の鈴木哲也さんです。
インターネットの力で被災地を継続的に支援する
ヤフー株式会社の企業理念には「世の中の課題をインターネットで解決しよう」というものがあります。インターネットを切り口に社会や人々を取り巻く問題に対して何ができるのか、日々考え向き合っています。ヤフーは東日本大震災から現在まで様々な復興支援の取り組みをしてきました。震災直後の余震が続く中、有志の社員で実際に被災地へ出向き現地の人と座談会を開いたりヒアリング調査をしたりしました。聞き取りをしていくうちに被災地の仕事の問題が浮き彫りになったと鈴木さんは言います。
「1つ目が震災により産業がなくなったということ。津波で会社自体が流されたり、製造がストップしてしまい仕事ができなくなってしまったんです。2つ目は販路がなくなったということ。震災で会社が被災してしまい、かつての取引先がなくなってしまった人が少なくありませんでした。」
鈴木さんが所属している復興支援室は、ヤフーの社会貢献推進室という部署に所属する、被災地支援を目的としたチーム。4人の社員が石巻にある石巻河北ビルの一角の「ヤフー石巻復興ベース」という拠点に常駐し、被災地の人々が経済的に自立していけるようインターネットを通じた継続性のある支援事業を行っています。
▲オフィスの外観(提供:ヤフー株式会社)
「ヤフー石巻復興ベース」は社員4人が本社と連携を取りながら、東北の産品を紹介・販売するECモール「復興デパートメント」の運営や被災地域でのリサーチ業務を行っています。大きな特徴は誰でも出入り可能なシェアオフィスがあること。市民同士がふれあえる場を提供しています。
「作業をしにオフィスへやってくる人はそこで互いに交流を深め、時には新たなビジネスが生まれることもあります。漁師さんがとれたての魚を持ってきてその場でさばいたものをみんなで食べたりもするんですよ。私たちも新しい繋がりができて楽しいです」とにっこり。
▲ヤフー石巻復興ベース(提供:ヤフー株式会社)
被災地で働く人と外とをつなぐオンラインショップ
(提供:ヤフー株式会社)
被災地の商品を日本中の人々に届けるECモール「復興デパートメント」は復興支援室が中心となって運営しています。
「一時的な支援ではなく、将来に渡って地域が活性化できるような息の長い事業を立ち上げたいという思いで、復興デパートメントを立ち上げました。被災地の人が自ら物を売ることができるプラットフォームです」と鈴木さん。
「東北に縁もゆかりもない僕たちは、ずっとその地に腰を据えて暮らしている人に比べたら知らないことが多い。でも裏を返すと、知らないからこそ視点を変えて物事を見つめられるとも言えます」と石巻で活動していく意義を話してくれました。
スポーツを通じて被災地の今を見つめる
(提供:ヤフー株式会社)
「復興デパートメントが内から外に宮城を発信していくものならば、『ツール・ド・東北』は外から内に人を呼び込む仕組みになっています」と鈴木さん。「ツール・ド・東北」は震災で大きな被害を受けた石巻・女川・南三陸・気仙沼といった宮城県沿岸部に位置する被災地域を自転車で回るイベントです。
多くの方が実際に東北に足を運び被災地の現状を肌で感じてもらうことで、震災の記憶を未来に残していくことや、東北の人やモノとの縁を結ぶきっかけとなることを目指して、10年程度の継続開催を目標に2013年に初めて開催しました。
「『宮城県の石巻って面白いことしている』ということを全国に知ってもらいたい。全国各地から石巻に視察が来るくらい先進事例を生み出していきたいと考えています。そのためには一時的ではない継続性のある事業を通じて、被災地の復興、さらには震災前以上の地域の活性化を目指していきたいです」。
原動力は「地域を元気にしたい」
茨城県のさくらがわ市で生まれ育った鈴木さんは、大学進学を機に横浜に出ても「地域のために何かしたい」と考えていたそう。
「かつては人もたくさんいて豊かだったさくらがわ市からどんどん人がいなくなり、さびれていくことに寂しさを感じたし、何とかしたいと思いました」と振り返ります。
新卒でCDなどの音楽商品を販売する会社に就職。仕事にやりがいを感じていたものの、同時に「どの土地に行っても働けるスキルを身につけたい」とも考えていたといいます。
2007年にはインターネットを生かした仕事ができるヤフーへ転職しました。
会社に勤めても、地元さくらがわ市への思いは消えませんでした。
島根県海士町のような地域域活性化の先進地域に実際に出向き、どうすれば街を盛り上げられるかを地元のかたがたに話をきいたりしていました。
「街を盛り上げるためにはこうすればいいんだ、との思いが少しずつ形になってきたところで東日本大震災が起こりました」。
復興支援室ができた当初は本社がある東京で震災復興に関する事業を行っていましたが、会社を通じてあたためてきた考えを形にしていきたいと石巻に赴任しました。
フェスをきっかけに街を盛り上げる
「学生時代からドラムが趣味で、音楽を聴くこともまた好きでした。以前から抱いていた『地域のために何かしたい』という思いを実現するには自分の好きなこと・得意なことを生かすのが一番いいのではないかと思い始めました」。
宮城県石巻市で開催した地域密着型音楽フェス「PARKROCK ISHINOMAKI」、宮城県女川町で開催の「東北JAM」をはじめ全国いくつかの音楽フェスの企画・運営にプライベートで携わっています。
鈴木さんは仕事の合間を縫ってコンセプト決めから、プログラムの編成、当日の運営まで多岐にわたる作業をこなします。
「来場者から『楽しい時間を過ごせた』『宮城いいところだね』と直接言っていただけたときがやってよかったなと感じる瞬間です。仕事との両立は大変な時もあるけど、自分の好きなことなので楽しみのほうが大きいです」。
被災地である石巻だからこそできることをしていきたいという鈴木さん。
「独立して地元桜川を盛り上げるような活動をしようかと考えた時期もありました。しかし、活動を通じてつながった石巻の人と桜川で活動している人を引き合わせたり、情報を提供したりというように、外側にいるからこそできる地域貢献の形もあると思うんです。まずは石巻に腰を据えて活動することで地域活性化における成功事例を石巻から全国に波及させる。『石巻おもしろいじゃん』と全国各地から人が来てもらえるような仕組みを作っていきたいです」。
取材を終えて
取材を通して、決して独りよがりではない「その人だからこそできる役割」について考えました。
地域を活性化したいと、そこで生まれ育った人が地元の課題に向き合うだけでなく、外から来た人が、まっさらな視点で活動することも重要です。多様な意見を取り入れた、より斬新なアイディアが生まれると私は思います。
「地域を元気にしたい」という思いが出発点でも、他者の目線に立ち、自分が提供できる強みや、どんな価値を生めるかを見極めながら行動することが大事だということを鈴木さんに教えられました。
今後社会で生き抜いていくには自分の得意なこと、好きなこと、力を最大限に生かせるところで精一杯頑張ることが必要なのだと思います。石巻に縁もゆかりもなかった鈴木さんは会社の仕事やプライベートでのフェス運営を通じて、地元住民から頼りにされる存在になっています。
私は今、大学3年生。来年から就職活動が本格化します。「将来どんな価値を生み出せるだろうか」私もじっくりと自分自身に向き合いながらベストな選択をしていきたいです。
文章:鈴木里緒(山形大学3年)
写真・画像提供:ヤフー株式会社、PARKROCK ISHINOMAKI
写真:鈴木里緒(山形大学3年)、安部静香(いぐする仙台)
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