釜石を自慢できる場所に「三陸ひとつなぎ自然学校」伊藤聡さん
12月18日のいぐするテラスは、「いぐするテラス×三陸LIVE!」の最終回。
釜石市にある一般社団法人三陸ひとつなぎ自然学校の伊藤聡さんにお話を伺いました。
「ひとつなぎ」という名まえは地域の人同士や、地域外の人ともつなぐことからきています。震災後の2012年4月に、地元釜石の出身者により設立された団体で、普段は「さんつな」と呼ばれています。
釜石でできる様々な体験プログラムのコーディネート、子どもの居場所づくり、人と地域をつなぐ活動などを行っています。
釜石で生まれ育った伊藤さんは、地元の高校を卒業後、仙台の専門学校へ進学しました。卒業後は釜石にUターン。商店街の振興組合、まちづくりNPO、地元の旅館などで働き、現在は「さんつな」の代表理事を勤めています。
伊藤さんが「さんつな」を設立するきっかけになったのが、地元の旅館「宝来館」で働いていたときに起きた東日本大震災でした。
目の前に海が広がる宝来館。
最大15mともいわれる津波は、4階建ての建物の2階まで押し寄せましたが、無事だった上階部分を避難所として開放し、地域の人を受け入れました。
釜石市だけでも、1,000人以上が亡くなった震災。「3月は生きるのに必死で、釜石ももうダメかな、と思うときもあった」と伊藤さんはいいます。
しかし、少しずつ時が経つにつれ、伊藤さんの中に、宝来館を復活させたい、という想いが強まってきます。さらに「ガレキだらけの中に旅館だけを復旧してもだめなのでは。地域も再起させなければ」と考えたそうです。
何をしたらいいだろうか?考えた伊藤さんの目に入ったのは、ボランティアとして活動する人々の姿でした。
「外から来た人のおかげで、昨日通れなかった道が通れるようになっている。ガレキだらけで色がなかった世界に、花を植えて彩りをもたらしてくれる。釜石はダメじゃない。大丈夫だ」と感じたといいます。
ボランティアの活動を見て、スイッチが切り替わったという伊藤さん。
自分と同じようにスイッチが入る人を増やしたい、そのために、ボランティアの受け入れ体制をつくって、まだ地域の人だけでは手の届かないところで活動してもらえれば。
今の「さんつな」の活動のベースとなる第一歩が踏み出された瞬間でした。
地域の誇りを取り戻すために
「さんつな」の活動で大事にしているのは、地域にいる人がどういう想いで住み続けるか。震災で大変だったし、人口も減っちゃったけど、釜石いい街になったよね。住民がそう言える街になるようにすること、そのために「地域の誇りを取り戻す」ことを目指して、活動を行っています。
他の地域の事例も参考にしています。「中越地震の後、自分が活動したり、ボランティアを泊めたり、なんらかの形で復興に関わった地域のお年寄りが『いい街になった』と口をそろえて言っていました」。伊藤さんは続けていいます「釜石でも地域に関わる人が増えれば、復興を実感して、後々『いい街になった』と言える人が増えるのではないでしょうか?」
3年後に釜石市で行われるラグビーワールドカップを目指して「釜石でワインをつくろう!」という宝来館のおかみさんと、地域のいろいろな人も巻き込んでぶどうの栽培を始める。
絶滅の危機にある植物、ハマボウフウを復活させたい!と立ち上がった地元の漁師さんと一緒に地域に呼びかけて研究会をつくる手伝いをする。
地域で新しくチャレンジをしたい人をつないで、活動が実際に走り出すきっかけをつくります。
釜石の魅力に触れる「かまとら」
今一番力を入れているのは、「かまとら」という地域でできる体験プログラムのコーディネートです。
釜石の「かま」に、TravelやTry、地域で愛される伝統芸能“虎舞(とらまい)”の「とら」で「かまとら」。釜石の魅力発見のために、みんなで楽しく元気よく、いろんなことに挑戦していこう!という意味を込めました。
地元のお酒を味わいながら釜石の森や水、お酒について知るプログラムや、
地元の猟師さん直伝の「ジビエ料理」を教わるプログラムなど、いろいろな団体と一緒に企画したプログラムを集めた博覧会のようなイベントです。
2015年の春に行われた第1回では8つだったプログラムが、同年夏の第2回目では15個に。この春もさらに数を増やして実施予定だそうです。
釜石の「人」にスポットを当てて、プログラムをつくっている「かまとら」。
プログラムに関わる団体の中には震災前からやっていたあたりまえのことを、ボランティアなどで外から来た人にほめられたことで初めて、自分達が持っているものの価値に気づいた人も。思わぬ長所に気がついたことでやる気に火がつき、お店を立ち上げた人もいるそうです。
「地元の人にも外の人との交流を通じて、地域の魅力や、おもしろい人がたくさんいることに気づいてもらい、釜石を自慢できる場所にしてほしいです」と伊藤さんはいいます。
「選ばれる」地域になるために
豊かな自然があったり、おいしい食事ができたりする場所はどこにでもある。
来た人を満足させるだけでなく、また来たいと思ってもらえる、選ばれる地域になるにはどうすればよいのか。
試行錯誤の中で伊藤さんが感じたのは「魅力が伝わるかどうかは見せ方次第だ」ということでした。
たとえば漁業体験は他の地域でもやっていますが、同じ漁業でも使っている道具が違ったりします。
どうしてここにこういう道具・やり方・暮らしが残っているのだろう?それが生まれた背景・プロセス・ストーリーがわかると、それはこの地域にしかない、オリジナルなものになる。見せ方や伝え方を工夫することで、体験してみたいと思わせるプログラムが生まれるといいます。
これまでつくってきたものを続け、より魅力的にしていくために、今後は「関わる人を増やしていきたい」と伊藤さん。
「これからは地元の人が中心になって動いていかないといけない。そのための担い手がいないのが今後の課題です」と教えてくれました。
行動から生まれる未来
今回のいぐするテラスには、東北福祉大学と宮城教育大学から、5人の学生が参加しました。参加者は全員3年生。質疑応答の時間には、「さんつな」の活動のみならず、よりディープな「働き方」「キャリア」の話にも移っていきました。
「就職することを考えたときに、伊藤さんのように、いろいろなところで価値を生み出していく、0から1をつくっていけるようになりたいです。そういった視野を持てるようになるために、必要なことって何ですか?」という質問に対して、
「一歩踏み出すことも怖くなくはないけれど、いいと思ったらまずはやる、やりながら考えています」と伊藤さん。会場一同、深くうなずくばかりです。
「行動からしか何も生まれない。行動するから気づく、同じ夢を持っている人とも出会うことができる。やってみて、成功や失敗をして、ふりかえって、また行動して…。その繰り返しで成長するのだと思います。やってみるとどうにかなるし、考えると無理そうなことでも、意外とできちゃうんですよね」。
取材を終えて
「担い手がいない」。2週間前にいぐするテラスで話していただいた、同じ釜石で活動するKAMAROQ株式会社の中村さんからも、全く同じ言葉を聞きました。
もうひとつ2人が共通して挙げていたのが、中越地震からの学びです。「人口も減っていく中で、街が震災前とまったく同じように戻るのは難しい。まちづくりに関わる人が増えていかないと、経済規模や人口といった基準だけでは、復興を実感する人が増えない」。
2人の取り組む方向性はそれぞれ違いますが、地域での活動に取り組む人を増やしたい、という想いは共通のものだと思います。
気仙沼、陸前高田、そして釜石。5回のシリーズを通じて、三陸で魅力的な活動・仕事を生み出そうとしている若きトップランナーのお話を聞いてきました。
各企業や団体は、インターンシップの受け入れなども積極的に行っており、学生のうちから地域に深く入って活動に参加できる機会があります。
ここで生まれた出会いをきっかけに、地域をつくる最先端に飛び込む人が一人でも増えれば、彼らの目指す「復興」がさらに加速するかもしれない。
そんな未来を期待しています。
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