復興の願い 笑顔のアルバムに込めて
「卒業アルバムは、一生の宝物。どうしても届けなければなりませんでした」
「斎藤コロタイプ印刷」(仙台市青葉区一番町)の生産担当部長、菅野幸久さん(49)は、東日本大震災直後の様子を振り返る。
同社は、130名の従業員で全国約3500校のアルバムを製作している。震災は卒業式シーズンと重なった。同社では出荷作業のピークだった。工場に大きな被害はなかったが、物流の混乱でトラックを確保できなくなった。倉庫には数百校分のアルバムが山積みだ。
「卒業式に間に合わないかもしれない」。従業員に不安がよぎった。「今はアルバムどころではないのでは」。各地の被害が明らかになるにつれ、葛藤も渦巻いた。
それでも、「どうしても届けたい」という気持ちが勝った。運送会社との交渉の末、地震発生から3日目には必要最小限のトラックを確保することに成功。出荷を再開し、3月中にはほとんどのアルバムを卒業生に届けることができた。
嵐のような出荷作業を終えた工場には、各地の学校から次々と感謝の手紙が届いた。「大変な時に、ありがとう」。菅野さんは仕事への想いを新たにした。「思い出を形にする私たちのアルバム作りは、社会に必要とされている。再認識しました」
1922年、同社は写真絵はがき印刷会社として創業した。写真の美しさを引き出すために磨いた確かな技術は、現在も卒業アルバム製作にいかされている。
▲自社で手掛けたアルバムに囲まれながら、震災後に届いた手紙を読み返す菅野さん
震災後の卒業アルバムには、復興の歩みを記録する役割も加わった。被災地の卒業アルバムは、今も続く学校の苦境も映し出す。校庭を自由に駆け回れず、間借りした校舎でどこか肩身狭そうな子どもたちの姿。アルバムをデザインする従業員も、胸を痛めながら写真を見つめているという。
来春は、震災の起きた春に入学した中高生が学び舎を巣立つ。アルバムには懐かしい思い出と共に、震災から3年間の歩みが刻まれる。同社は今、卒業式シーズンに向けて日夜アルバムの製作に追われている。
東北唯一のアルバム専門メーカーとして、被災地の卒業生に贈るアルバムに込める願いは格別だ。「のびのびと学校生活を送る子どもたちの笑顔が、少しずつアルバムに帰ってくること。それが、私たちの喜びです」
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