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東北の声よ届け!出版社「荒蝦夷」の思い

橋本康平 橋本康平
3,728 views 2014.03.07
橋本康平 橋本康平 東北学院大学4年(執筆当時)
2011年3月11日の東日本大震災直後、たくさんの物があふれる東京では放射能に怯え、物資を買い占める人々がいました。私の近くには、食べ物すらない避難所がたくさんあるというのに。
震災から数カ月後、もどかしい気持ちを抱えていた私は書店で雑誌「仙台学」に出合いました。東北ゆかりの作家が震災への思いをつづっているのを見て、心を強く揺さぶられたのを覚えています。

震災後に出合った「仙台学」

発行している有限会社「荒蝦夷(あらえみし)」は、仙台市宮城野区にある編集スタッフ3名の出版社です。震災時、被災地の現状を伝えた取り組みが高く評価され、2012年には日本唯一の出版社を表彰する賞である梓会出版文化賞の「新聞社学芸文化賞」を受賞しました。年2回発行している「仙台学」を始め、今まで出版や編集に関わった本は60冊を超えます。

震災から間もなく3年経つ今、「仙台学」編集長の千葉由香さん(50)は「仙台から東北の魅力を発信したい」という思いをますます強めています。

araemishi①

東北の魅力発信を目指して法人化

荒蝦夷の原点は、2000年に民俗学者の赤坂憲雄さんを中心に集まったフリーライターとともに制作した「別冊東北学」という雑誌でした。千葉さんや荒蝦夷代表の土方正志さんは当時からのメンバーでした。東北ゆかりの作家たちが手掛けた小説や東北の魅力を詰め込んだ記事をまとめ、2000年から2004年にかけて8冊刊行しました。「別冊東北学」の編集を通して「東北は面白い。その魅力をもっと伝えたい」と思うようになったそうです。

その思いから2005年に創刊したのが「仙台学」です。同時に荒蝦夷を設立しました。

康平顔橋本康平
どうして荒蝦夷を立ちあげたのですか?
※芥川龍之介作品を愛読する大学3年生。特技は即興の物語創作

araemishi-kao千葉由香さん
「仙台学」を多くの人に読んでもらうためです。編集だけでなく販売も自分たちで手掛けることにしたんです。
※出版社「荒蝦夷」の編集長

インパクトのある社名は、「別冊東北学」で連載していた後の直木賞作家、熊谷達也さんの小説のタイトルが由来だそうです。「仙台学」では宮城県の海や山について調べた記事を載せたりして、宮城で暮らすことを楽しむための情報発信を心掛けました。
そのほかにも東北に伝わる怪談や、地方新聞社の連載をまとめたものなど、様々なジャンルの編集、出版に携わってきました。

湧き上がる思いをカタチに

そんな最中、大震災に見舞われました。「仙台学」11号の準備が進んでいた頃のことでした。荒蝦夷の事務所も大きな被害に遭い、一時は業務を続けるために山形市へ避難しました。スタッフやアルバイトもそれぞれ自宅や実家、あるいは家族が被災しました。

これまでの『仙台学』は、結果的に戦後から震災前の宮城の歴史をまとめることになったんだ」と気付いたという千葉さん。明日の見通しもたたない中、自分たちの取り組みに使命を感じたそうです。

araemishi②再

千葉さんが荒蝦夷に参加した動機は、それまでの「東京から地方へ」という情報発信の在り方、東京中心的な考えへの違和感でした。そして、震災直後、被災地の声は「想定外」「大災害」という言葉にかき消されていました。
被災地からの声を届けたい。湧き上がる思いを形にしたかったのです。「仙台学」の発刊を途絶えさせるわけにはいきませんでした。

千葉さんたちはすぐに行動を開始しました。
「東日本大震災で感じたことを書いてください」
東北ゆかりの作家たちに頼み込みました。急な依頼にも、およそ10日後にはほぼ全ての作家が原稿を送ってくれました。被災地の声を届けたいという思いはみんな一緒だったのです。
印刷所はまだ完全に復旧していない状況でしたが、紙とインクを探し出してくれました。震災からわずか1カ月半後の2011年4月26日、様々な人の思いがこもった「仙台学」vol.11を出版することができました

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表紙の色は赤と黒のみ、その中身は荒々しくそして痛ましさを感じるものでした。視聴率を狙ったかのような報道についての怒りや、震災で何もできない無力感。伊坂幸太郎さんら著名な東北ゆかりの17人が胸の内をつづってくれました。
「想定外」という言葉では伝わらない思いが詰まった「仙台学」Vol.11は普段の3倍に当たる6000部を売り上げました

これからも「東北」をテーマに

araemishi④
荒蝦夷では、直接本を書店や個人に届けています。
執筆、編集、販売を自分たちでこなしているため、特に締め切り前は目が回るほどの忙しさだとか。

araemishi-kao大変だけど、読者が見え、その声を聞くことができるので日々のやりがいを実感できます。

阪神・淡路大震災を経験し、東日本大震災の被災地に思いを寄せる神戸や、荒蝦夷が一時避難した山形市の書店などが荒蝦夷の「応援フェア」を開いてくれたそうで、いかに読者や書店に愛されている出版社かが伝わってきます。2月24日には「仙台学」vol.15を発刊し、3月5日には「震災学」vol.4(東北学院大学発行)を発売しました。東北学院大学で作家を招いた講演会を開いたり書店でフェアを開催するなど、イベントも精力的にこなしています。

康平顔今後の目標は何ですか?

araemishi-kaoもっとたくさんの人に荒蝦夷の本を手に取ってもらいたいですね。読者の顔が見える出版活動を続けていきたいです。

東北を愛し、その魅力を伝える荒蝦夷の挑戦は終わることはありません。今後も一読者として応援していきます。早速「仙台学」vol.15を買いに行きます。皆さんもぜひ!
千葉さん、ありがとうございました!

東日本大震災は未だ深刻な爪痕を残しています。震災を忘れないために何かをしたい。そんな思いで臨んだ荒蝦夷での取材でした。しかし、私は取材を通して、何よりもまず「地元」があって、「震災」を考えなければならないと気付きました。「地元」あっての復興であること、その思いを伝える荒蝦夷という出版社の魅力を伝えることができればと思います。。

橋本康平橋本康平東北学院大学4年(執筆当時)
文章:名前(○大学○年)
写真:名前(○大学○年)
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有限会社 荒蝦夷(あらえみし)
http://homepage2.nifty...
住所〒983-0803 宮城県仙台市宮城野区小田原2-2-27 第一飯田コーポ201
電話番号022-298-8455