「ずんだ」じゃない、「づんだ」
若草色に「づんだ餅」と白抜きされたのれんをくぐると、ショーケースにお餅や大福、まんじゅうがきれいに並んでいる。手作りが売りの村上屋餅店(仙台市青葉区)は137年も続く老舗のお餅屋さんだ。表記は一般的には「ずんだ」だが、ここでは「づんだ」。「豆を打って作る豆打(づだ)」がなまったことに由来する。この表記も店の主人、村上康雄(59)さんのこだわりだ。
毎朝早くから主人の村上さんは、一人で仕込みを行っている。つきたての餅を同じ重さになるように手でちぎる。枝豆の薄皮も一つひとつむいていく。餅屋なだけあり、真っ白な餅は柔らかく、こしがある。枝豆と砂糖と塩だけで作られるづんだは絶妙な甘さのなかに、しっかりと豆の味が生きている。手作りだからこそ、作れる味。どこの店でも同じ味で食べられるような商品には負けない自信がある。
▲「俺よりおいしいづんだ餅作ってみろ」。守り続けてきた伝統の味に、揺るがぬ自信がある村上さん
「あたしのひいおばあちゃんのころから通っているのよ」。常連客の女性(76)は誇らしげに話す。その隣の娘も「他の店のずんだは、づんだじゃないよね」とうなずきながらほほ笑んだ。本物の味を求めて、全国から食べにくる人も少なくない。変わらぬ味は場所や時代を超え、愛されている。
東日本大震災時、村上屋餅店は、2日後から営業を再開した。「こんなときこそ甘いものが食べたい」。店の前には長い行列ができた。客の気持ちに応えようと村井さんは朝から晩まで餅を練った。震災の被害が大きかった石巻の知り合いのところまで、餅を届ける客もいた。2年5カ月経った今でも、「あのときはありがとう」とお店を訪れる客が後を絶たない。
伊達家御用達の菓子司から続く歴史がある村上屋餅店。今では仙台名物となったずんだ餅を初めて商品化して販売した店でもある。先代で3代目の祖父村上清次郎さんが考案し、その味を4代目の康雄さんが引き継いだ。
「俺がやめるときが、この店を畳むときだ」。静かに言い切った今井さんは、「伝統とはそういうもの」と淡々と語る。今井さんにしか作れないここだけの味がある。「俺が生きてるうちに、食べに来て」。冗談めかして言う今井さんの手は、厚くて固い職人の手をしていた。
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- 山形大学人文学部法経政策学科
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