身近な大人に聞いてみた はたらくってどういうこと?
ワタシゴト

初志貫徹。仕事を楽しむ鍼灸師。

加子 瑞騎 加子 瑞騎
530 views 2020.06.25

大沼竜也さん 大沼鍼灸

「独立」 あこがれはあるものの、分からないことが多く自分には関係ないことだと思っていました。今回はそんな独立を27歳でされた、大沼鍼灸の大沼竜也さん(29) に、初のオンライン取材でお話を伺いました。なぜ大沼さんは、独立という道を選んだのでしょうか。独立、鍼灸どちらにも馴染みのなかった僕には知らない世界が広がっていました。


▲初のオンライン取材!(最初はいぐする編集室スタッフも同席しました)

自分の考えを形にした鍼灸院

一番町のマンションの一室にお店を構える大沼鍼灸。美容鍼 (はり)を中心に、4つの国家資格を持つ大沼竜也さんがお客様の要望に合わせた施術を施す鍼灸院です。
新型コロナウイルスの影響で一時は客足が減少したものの、現在は回復傾向にあります。コロナ禍では、生活環境の変化やテレワークへの移行によるストレスを抱えたお客さんの”駆け込み寺”のような役割を果たしました。

大沼鍼灸は大沼さんが受付、経理から施術まで全て1人で行っています。ホームページを見てみると、美容院かと思うほどきれいで、僕の頭にあった木の看板の鍼灸院とは大きく異なる印象を受けました。ホームページは写真から文章、鍼のロゴまで大沼さんのお手製です。

鍼に対する知識や情熱も、たくさん持っています。
鍼に対する痛みの感じやすさにはいくつかの要因が影響し、その中の1つに鍼灸師との関係性があります。「この人なら大丈夫」 と思ってもらうことが大切で、そのため大沼さんはお客さんとの会話を大切にし、他人だけれども 信頼される人になるよう努めています。
そしてまずは自身がリラックスし、万全な状態で会話や施術が出来るよう落ち着ける空間を大切にしています。

大沼さんはなぜ鍼灸の道へ進み、独立をしたのでしょうか。そしてどのように今の大沼鍼灸が出来たのでしょうか。

夢にむかってコツコツと

30年前、鍼灸師は独立することが普通でしたが、景気の悪化もあり、大沼さんの学校の同期では50人中3~4人しか独立をしていません 。そんな独立があまり一般的ではない 中、大沼さんは独立を目指しました。

大沼さんの実家は自営業で、独立して一人前という考えが幼いころからありました。学生時代は野球部で接骨院にお世話になっていたおり、そのため進路として独立開業できる鍼灸の道を志しました。

鍼灸の専門学校では開業する際の強みになるように柔道整復科、鍼灸指圧科の2つの科に連続して通い、「鍼師」「灸師」「あん摩マッサージ指圧師」「柔道整復師」の4つの国家資格を取得、さらにその間鍼灸院でインターンするなど着々と技術を身に着けました。


▲施術中のようす

卒業後は、鍼灸院以外にもリラクゼーションサロンやリハビリなど、多くの職場で経験を積みました。鍼灸の道を志してから現場で働くようになるまで、10年ほどの時間が経ったことで、鍼灸院を取り巻く景気は悪化し、普通に独立するだけでは生き残っていけないと感じました。

それでも独立をあきらめず、多くの職場で働きながらどのような鍼灸院で何を‟強み” にするのかを考えました。
美容に特化した美容鍼でやっていこうと決めた大沼さんは、美容鍼について勉強し、自分の顔で実験しながら技術を身に付けました。また、大部屋の鍼灸院と個室の鍼灸院で働いた経験から、よりお客さんとの会話に集中できる個室の鍼灸院にしようと決めました。

独立するまでには1年半、副業として往診をしながら準備を進めました。準備期間には鍼灸院のコンセプトを固めたりホームページを作ったり、楽しみながら準備をしました。

自分の体で鍼の研究をしていて、「一時期は腕があざだらけだったけど、なぜそこに鍼を刺してはいけないのか、やっちゃダメなのか分かるから楽しい」と語る大沼さん。 鍼灸の仕事がどれだけ好きか伝わりました。

準備ができ、技術も身に着けた大沼さんですが、独立する直前には大きな不安を感じました。さらに結婚とお子さんの誕生で、プレッシャーは大きくなりました。大きな不安の中、最後の一歩を踏み出せたのは、当初定めた「売り上げの目標」 を達成できたからでした。

実家が起点で目指した独立でしたが、やってみると自由に働ける環境の魅力に気づきました。「娘も生まれたばかりなので、コロナショックで暇な時間は喜んで家にいました。きっと前の会社にいれば、働きに行かなければいけなかったでしょう」。

大沼さんの考える鍼灸師の理想像

大沼さんに今後の展望を聞くと「今の形態で人を雇わずに続けていきたい」と話し 、意外でした。独立したら、その後は規模を大きくするものだと思っていましたが、大沼さんには鍼灸師の理想の姿がありました。

「鍼灸師はそれぞれが独立していて、雇う、雇われるのではなく、仕事毎に契約が発生するような関係が良い。そしてセミナー等で一緒に勉強するような関係が理想」。そのため今後も1人で続けていきます。

「くいっぱぐれない仕事として選んだ鍼灸師、今では体や心の仕組みを勉強できる大好きな仕事です。最近は日常の一部になって働いている感覚がなくなり、この先60年学びながら働くことを考えるとワクワクします。死ぬまで働きたいです」。


▲仕事道具

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僕はずっと独立したいと思っていたが、なかなか一歩目が出なかった。頭の中に理想像があったので、その通りにいかないとかっこ悪いと思っていた。でもやってみるとそんなことなくて、わからないところに飛び込んだら、一歩進むしかない。一歩進むと、勝手に進む。何も考えないで、一歩目を出すことも大切。

そして今、進路に悩んでいるなら、ワクワクできることを探したほうがいい。僕が今、この仕事をしているのは、体の勉強をすることが楽しいから。周りの友達を見てもやりたいことをしている人からは、安定を求めて就職した人から聞くような愚痴を聞かない。悩んで動けなくなる時もあると思うけど、それは普通。悩むと体がこわばってしまうので無理をせずに、ちっちゃな一歩で進んでいくことがお勧め。


▲鍼も画面越しに見せていただきました!

独立と聞くと、思い切りや野心的なイメージを感じていましたが、大沼さんの話を聞いて印象が変わりました。大沼さんは目標を決めて、そこにたどり着けるようコツコツ行動してきた人でした。

やるべきことは分かっていても、実際に行動し続けることは難しいのに、大沼さんは約10年もの間、独立に向けて動き続けていました。なかなかマネできることではないですが、僕も見習って少なくとも学生の間はやるべきことをやれるように生活します。

鍼灸になじみがなかったので、体に鍼を刺すなんて考えられませんでしたが、大沼さんの持っている鍼灸に対する思いを聞くとぜひ体験してみたくなりました。大沼さんは優しく落ち着いた雰囲気を持っており、最後にはおもわず進路に対しての悩みを言ってしまいました。

加子 瑞騎加子 瑞騎東北大学
文章:加子瑞騎(東北大学4年)
写真:提供 大沼鍼灸
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この記事を書いた人

加子 瑞騎
加子 瑞騎
出身は愛知です。一人暮らしを機に、料理を頑張っています。せっかく仙台まで来たので、この土地のグルメ、また取材を通して中小企業に詳しくなります!