「梶農園」真っ直ぐにバラと向き合う
2017年8月に一般社団法人ワカツクと河北新報社が主催した、記者インターンシッププログラム「記者と駆けるインターン」。参加学生が執筆した記事を紹介します!
真っ直ぐにバラと向き合う
バラの花束を両手に抱える。そっと、優しく、力を入れすぎない。無理せず、持てる分だけ冷蔵室へ運ぶ。それが収穫したバラを傷つけないための極意だ。
名取市高柳のバラ工房「梶農園」。代表の丹野敏晴さん(64)の娘婿、岳洋さん(40)がバラの切り花の出荷に追われていた。手にした人が少なくとも1週間は楽しめるよう、抜群の鮮度で出荷するタイミングを慎重に見計らう。
創業は1980年。宮城県内で最大規模の約1万平方メートルの敷地で、40品種以上を栽培する。年間約100万本の切り花を仙台や東京の卸売市場へ出荷し、農園に併設した直売所でも販売する。「1週間は楽しめ、花びらが開く様子も見られる」というのが、梶農園のバラの特徴だ。
岳洋さんは結婚を機に、介護福祉士からバラ農家に転身し、栽培を手掛けている。多いときは2、3時間ごとに生育状況を見回るなど、品質管理には細心の注意を払う。16棟ある温室を1日に何回も往復し、“買って良かった”と喜ばれるバラづくりの労を惜しまない。
農園を東日本大震災が襲ったのは、就農6年目のことだった。津波の被害は免れたが、地震の強い揺れでバラを育てる台座が倒壊し、3分の1がダメージを受けた。復旧作業はバラのとげに阻まれて困難を極めたが、迷うことなくチェーンソーで茎を刈り取り、1か月余りで出荷を再開した。後押ししてくれたのは「待っているよ」というお客さんの声。「立ち止まっている余裕なんてなかった」。
2013年、国内最大の取扱量を誇る東京の花き市場の品評会で、梶農園のバラ「インスピレーション」が18万点の中からグランプリを受賞した。ピンク色が鮮やかな人気の品種だが、風が吹いて花同士が触れ合っただけで傷がつくほど繊細なバラで、扱うのが難しいとされる。震災前からぶれない岳洋さんの丁寧な栽培スタイルが、結実した瞬間だった。
バラを「同志」と呼ぶ岳洋さん。栽培は簡単ではないが、「バラは手をかければかけた分だけ応えてくれる」と語る。やりがいが、誠実なバラ作りを支える。
取材後記
何を取材してみたいのか、一緒に取材する班のメンバーで話はすぐにまとまりました。というのも、「花は心の余裕がある時に飾るよね」というメンバーの1人の意見があったからです。東日本大震災から6年が経った今、花のある生活のすばらしさを伝えたいと考えました。
「鮮度が良く、綺麗に咲く」という梶農園のバラは、これまで多くの人々の心を癒してきたことでしょう。私自身、初めて取材で訪問した際に、母へバラを注文させていただきました。母もその立派なバラに驚き、祖母へ同じようにバラを贈ったそうです。もらってうれしく、誰かに教えたくなるような梶農園のバラは、これからもファンを増やし続けるのだと思います。
仙台はじめ東北地方との関係を築けたことが、このインターンシップに参加してよかったところです。今後も、変化する東北を自分の目で確かめ、伝えることを続けていきたいです。
取材協力
文・写真
河北新報社インターンシップ16期B班
立命館大学3年 横見知佳(2017年8月当時)
この記事を書いた人
- 一般社団法人ワカツクと河北新報社が主催するインターンシッププログラム「記者と駆けるインターン」。学生たちがチームを組んで、仙台の中小企業や団体を取材した記事を紹介します。ときに励まし合い、ときにぶつかりながら、チームで協力して取り組んだ“軌跡”をお楽しみに♪
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