「株式会社ねこまた」齋藤昌秀さん【いぐするテラス】
「絶対起業しない」そう誓っていたはずなのに…
2017年11月20日のゲストは、株式会社ねこまたの代表取締役の齋藤昌秀(さいとう・まさひで)さん。株式会社ねこまたは、スマートフォン向けのアプリケーションの開発などを手掛ける、従業員数7名、平均年齢35歳の仙台のIT企業です。
社長といえば、成功者や実業家など華々しいイメージを想像しがちですが、齋藤さんが起業に至った経緯は、私たちが思う“起業”や“社長”というイメージとは、少し違ったものでした。
最初の転機
齋藤さんは、「遊びたいから」という理由で理系にも関わらず、推薦で進学できる文系の大学へ入学します。
そんな齋藤さんに転機が訪れたのは、大学3年生の時。父親が連帯保証人をしていた親戚の会社が倒産し、齋藤さんは大学の中退を余儀なくされます。将来は、公務員になって安定して働きたい、と思っていた人生が大きく変わった瞬間でした。
バブルが崩壊し、就職氷河期真っただ中の1990年代。大学を中退する自分が、どうすれば就職できるのか。齋藤さんは必死に考えました。
「ここで足掻いておかないと、すべてを親父のせいにして、一生後悔すると思った。時間だけはあったから、劣等感を持たずに自分自身のアイデンティティを持つにはどうしたらいいんだろうって考え続けたよ」。
様々な企業が、コンピューターのシステムの導入を考えている時代でもありました。齋藤さんは、小学生のころから趣味だったプログラミングを独学で学び、いくつかの資格を取って就活に臨みます。
ハローワークに通い、何度も面接を受け、企業の社長や大人に会うことを齋藤さんは続けました。その中で出会った、工場のシステムにコンピューターの導入を考えているという会社に就職します。
しかし、いつまで経っても導入する気配がなく、工場でのラインの仕事が続く日々。齋藤さんは、25歳で転職を決意します。
失敗続きでも、実業家じゃなくても、社長の道へ
IT系の企業へ入社できた齋藤さん。結婚をし、家を買い、子どもも生まれ、やっと安定して働けるようになったころ、上司から「取締役にならないか」という声がかかります。入社して12年目のことでした。
齋藤さんは、倒産した親戚のことを考えました。しかし、若手だったはずの自分も既に会社の中堅。しぶしぶ取締役の話を引き受けます。
ところが取締役に就任してまもなく、会社がリーマンショック、政権交代などの経営苦難の危機に追い込まれます。
「やっぱり経営なんてやるもんじゃない」齋藤さんは、取締役になったことを後悔したといいます。
その後、会社はなんとか持ち直しますが、今度は代表が病気を患い、入院。齋藤さんはそこで改めて、自分の仕事について考え始めました。
「専門としている大好きなプログラミングを、どうすれば続けられるのだろう」。
病床の社長に「会社を作ったらできるかな?」と相談すると、「やってみたらいいっちゃ」と笑顔で答えてくれました。創業補助金の助成が受けられるタイミングだったこともあり、齋藤さんは「絶対にしないと誓っていた起業」へたどり着き、株式会社ねこまたが誕生します。
聞いているだけでもハラハラする、齋藤さんのこれまでの人生。参加者も「まだなにか起こるのか…」と、少し構えた表情をしながら聞いていました。
しかし、齋藤さんは笑いながら「どう考えても失敗のほうが多い人生だけど、こうやって社長になる人も居るんだよね」と、これまでを振り返ります。
責任は“とる”ものじゃなく、“果たす”もの
齋藤さんが自身の経験を通して伝えたいことは、2つ。
1つ目は、「働くとは責任を果たすこと」ということ。
就職氷河期の時代に、大学中退というハンデを抱えながら就活をしていた齋藤さん。自身のことを“商品”だと捉え、自分は会社でどんな責任が果たせるのか、という観点から仕事を見るようになったといいます。
何も決まらない会議ではよく「誰が責任を“とる”んですか?」「責任は“とれ”ますか?」というフレーズが出てくるそう。
「責任は“とる”ものじゃなくて、“果たす”ものだと思って仕事をしてください」。
2つ目は、人に会いに行く努力をしてほしいということ。
齋藤さんの波乱万丈な人生はなかなか珍しい気もしますが、たとえ普通に会社に就職しても、必ず安定が手に入るわけではありません。仕事は好きでも、どうしても好きになれない人が現れるかもしれない。職場は安定していても、自分の果たすべき責任が本当にこの仕事にあるのか、と悩むこともあります。
だからこそ、いろんな場所や人に会いに行き、自分の気持ちや本当にしたい仕事を確かめに行く努力をしてほしいと、齋藤さんは参加者へ語ります。
株式会社ねこまたの由来はNetwork Computing with Machines and Tabletsの頭文字と、妖怪のねこまたからきているそうです。
「長生きした猫がねこまたになるように、妖怪みたいなプログラマーになれればいいな、と思います」。
そう話す齋藤さんの姿は、過去の挫折や失敗を感じさせないほど、飄々としたものです。もうすでに妖怪になりつつあるんじゃないの?と思いながら、その言葉を聞いていたのでした。
取材協力:株式会社ねこまた
文章:寺尾まりえ(ワカツク)
写真:安部静香(いぐする仙台)
この記事を書いた人
- 寝つきのよさと目覚めのよさが自慢。趣味は映画鑑賞。
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