学生記者がお仕事の魅力を発見!仙台イケてる会社訪問
イケ社

地元石巻と協力して、藻の魅力を生かした商品づくり「スメーブジャパン」

佐藤 萌 佐藤 萌
1,614 views 2015.09.25
佐藤 萌 佐藤 萌 東北大学2年(執筆当時)
最近、コンビニやスーパーなどでミドリムシ入りの食品をよく見かけます。気にはなるものの、藻って美味しいのかなーと、買う勇気は持てませんでした。調べてみると、宮城県にも「藻」を研究している会社があるらしい。藻の研究?藻って何の役に立つの?考えていても謎は深まるばかりなので、取材に行ってきました。

スメーブジャパンって、こんな会社!

「スメーブ(SMABE)ジャパン株式会社」は、Super Micro Algae Biology Energyという単語の頭文字が由来となっています。直訳すると「スーパー微細藻類バイオエネルギー」。社名の通り、微細藻類と呼ばれる藻の「ナンノクロロプシス」を研究開発し、バイオ燃料を取り出すことを目標としているほか、食品やサプリメントにも活用しています。

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2009年に設立。2013年に本社を仙台市から石巻の牡鹿半島にできた工場に移し、本社があった場所は仙台営業所になりました。本社工場には管理、生産加工、研究の三つの部門があります。「管理」は事務や経理、「生産加工」は機械の操作や粉末の梱包作業等、「研究」はナンノクロロプシスの培養を行い、品質検査や、大量培養を可能にするなどの実用化に向けての研究を行っています。今回の取材は、晩翠草堂近くにある仙台営業所で、生産管理部部長の後藤さんにお話を伺いました。

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▲本社工場のナンノクロロプシスを培養する培養プール (スメーブジャパンのホームページより)
 
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▲ナンノクロロプシス (スメーブジャパンのホームページより)

「ナンノクロロプシスの研究・生産は農業のようなもの」と後藤さんはいいます。畑の土の代わりに培養プールの水でナンノクロロプシスを育てる。まるで雑草を抜くかのように、培養プールから他の生物を取り除き、休みなく管理をする。まさに農業と同じです。

仙台の企業魅力

「藻」の特色を商品に生かす

食品に混ぜたり、バイオ燃料への利用に向けて研究を行ったりするなど、藻が注目され始めたのはここ数年の話です。「ナンノクロロプシスを取り扱っている企業はまだほとんどありません。スメーブジャパンは日本で初めて、ナンノクロロプシスを主原料とした植物性EPA(エイコサペンタエン酸)を、手軽に摂取できるサプリメントと、スムージーを開発しました」と後藤さん。「ナンノクロロプシスの栄養素を逃さないようにすることを意識しつつ、商品化に漕ぎつきました」。

EPAは、厚生労働省が「DHAと合わせて1日1g以上の摂取」を推奨(厚生労働省「日本人の食事摂取基準」)しています。ナンノクロロプシスには他の藻類と比べて植物性EPAの含有量が多く、さらにビタミンやミネラルなど61種類の栄養素が含まれています。「スムージーはカロリーも低いので、ダイエットのために毎日飲んでいます」と後藤さんは言います。

他にも、スメーブジャパンはナンノクロロプシスを乾燥させて粉末にし、さまざまな商品への応用を試みています。化粧品に混ぜたり、肉質を向上させるために家畜の飼料に混ぜたりと、活用の可能性は無限に広がります。「私たちは誰もやったことがないことに挑戦している。それゆえポテンシャルと難しさの両方を含んでおり、研究のやり甲斐は十分にある」と笑顔で話してくれました。

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石巻に密着した会社作り

東日本大震災から2年後の2013年、スメーブジャパンは石巻市の牡鹿半島に工場を建設し、操業を開始しました。
牡鹿半島は水温や日照時間、海の潮目など藻が育ちやすい環境が整っているため本社工場を建設する候補地だったこと。震災後、石巻市から耕作不適地の活用と石巻の新たな産業の創出のため、スメーブジャパンに声がかかったこと。会社と市のニーズが一致しての工場設立でした。スメーブジャパンは工場を石巻の人々と一緒に作っていこうと決め、その決意は雇用や商品づくりに表れています。
工場の従業員は15人。全員が石巻市出身で、元漁師など、震災で職を失った人もいます。さらに石巻専修大学とは共同研究を行っており、卒業した後、そのままスメーブジャパンに入社する学生もいるそうです。

「石巻の雇用を増やすことで復興にも貢献できる。石巻の力で、世界に通用するような研究をしていきたい」という思いがスメーブジャパンにはあります。

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また、石巻発にこだわった新商品のアイディアを生むために、月に一回「ナンノクロロプシス普及研究会」も開催しています。この研究会には地元企業が参加し、ナンノクロロプシスを用いたさまざまな商品を共同で開発しています。

現在は藻入りの米粉パンが商品化されており、「クジラ藻バーガー」として石巻のスーパーで販売されています。地域の人たちの好評を博しているそうです。他にも、蒲鉾本舗高政(かまぼこ)、有限会社風月堂(アイス)、有限会社島金商店(麺)などといった女川や石巻の企業と共同で商品を試作しているところです。
ところで、藻入りの食品ってどんな味がするの?謎を解明するために、私も試食させていただきました。

まずは藻アイス。

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見た目は緑色をしていて、抹茶アイスのよう。海藻みたいな味がするのかな…?と、期待と一抹の不安を胸に抱えながらひとくち。

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「あれ?美味しい」予想していた藻の味、青臭さやクセが全くなく、食べやすい。加えて、普通のアイスよりも濃厚に感じられました。とても美味しくて、あっという間に完食してしまいました。

お次は藻米粉パンをいただきました。

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もちもちしていて藻の味やにおいはほとんどなく、美味しかったです。

美味しいだけではなく、藻は食品の機能性を向上させる働きもあるそう。「米粉はもともと日持ちが悪いのですが、藻を入れると、保存期間が数日伸びました」と後藤さんが教えてくれました。

まずは知ってもらうことから

「寒い地域で獲れる魚に油がのっているのは、餌となる植物プランクトンが、寒いほど油を溜めこむからだと言われています」と後藤さんは言います。「植物プランクトンの一種でもあるナンノクロロプシスを生産できる条件が整っている石巻と、そこで生産されるナンノクロロプシスの良さを、もっとたくさんの人に認知してもらいたいですね」。事業の最終的な目標は、バイオ燃料の実用化に向けたナンノクロロプシスの大量培養です。バイオ燃料は地球温暖化対策に有効な燃料として、今後さらに需要が高まると予想されています。しかしコストの削減と培養技術の確立は国内でもまだ達成できておらず、また達成するにはかなりの期間を要します。生物や自然を相手に研究・開発を行っていくため、必ず予測できない問題が次々と起こるのです。「夢は大きいけれど、その分、障害も大きいかもしれません」でも、と後藤さん。

「バイオ燃料の研究を進めながらも、石巻の企業との商品開発と、その商品のPRを通して、ナンノクロロプシスと石巻の魅力を広く発信していきたい」と話してくれました。

スメーブジャパンは、取材だけでなく学校からの見学希望なども積極的に受け入れているそうです。訪れる学生は小学生から大学生まで幅広く、目的も経営の仕方であったり、研究内容であったりとさまざま。「時には小学生からのはっきりとした意見が参考になることも。『これは藻を入れすぎ!』など、はっきり言われますね」。このようなたくさんの声に耳を傾ける姿勢が、新しいものを生みだす企業には必要であることが分かりました。今後はナンノクロロプシスを用いて一体どんな商品が生み出されるのでしょうか。期待が高まります。

一度食べてみて、すっかり藻入り食品のとりこになってしまいました。今度はクジラ藻バーガーを食べに、石巻に遊びに行こうと思います。

佐藤 萌佐藤 萌東北大学2年(執筆当時)
文章:佐藤萌 東北大学2年  写真:長谷川美佳 東北大学院2年 
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