人が暮らすように、「玉虫塗」が暮らす。仙台が誇る伝統工芸の新しいカタチ
テーマは「伝統に触れる」
漆器特有の手に吸い付くしっとり感。吸い込まれそうなほど、つややかで深みのある漆黒。光る銀色の模様。そのモダンさは、旧来の漆器とは一線を画す。
宮城県仙台市の伝統工芸品、玉虫塗。仙台市青葉区上杉にある東北工芸製作所が手がけている。旧来の玉虫塗は鮮やかな赤や緑の漆器。四季の花々や「月とうさぎ」など、古典的な模様が主流だった。主に、贈答品や記念品としての需要があったが、タンスの肥やしになってしまうことが課題だった。
「ものは人に使い続けてもらわなければ意味がない」
東北工芸店長の佐浦みどりさん(44)は語る。そこで制作されたシリーズ、「TOUCH CLASSIC」。意味は、その名の通り「伝統に触れる」。サラダボールやグラスなど6種16品目が並ぶ。和洋どちらの空間でも使いやすいよう、モノトーンで統一。「漆器の魅力を常に肌で感じられる商品をつくりたいと思い、トライしたんです」と佐浦さんは、新シリーズへの願いを込める。
▲自慢の商品を手にする、木村真介さん(左)と佐浦みどりさん(右)
震災が引き合わせた、モダン×熟練の技
東日本大震災は、TOUCH CLASSICプロデューサーの木村真介さん(34)と東北工芸を引き合わせた。首都圏を中心に活躍してきた木村さんは「被災地の地元産業を盛り上げたい」と来仙。「連綿と受け継がれてきた地域の文化を、震災で失いたくないですからね」と木村さんは言う。
木村さんは新商品を作る上で、何度も職人との話し合いを重ねた。職人の松川泰勝さん(50)は、ガラスなど新素材への挑戦に「よし、やってやるぞ」と熟練の技で乗り越えた。
新シリーズの評判は高い。海外からも注文が舞い込む。国内では、TOUCH CLASSICが雑誌に取り上げられ、商品が欲しいと直接連絡があるほどの反響だ。今まで縁が薄かった首都圏の客層との接点も増えた。
仙台市泉区の会社員(41)は、暮らしの中に漆器が息づく魅力を語る。
「いいもんだよ。伝統に裏打ちされた器が1つ食卓に並ぶだけで、場が華やぎ、生活がどこか豊かになった気分になるからね」
革新し続ける玉虫塗
暮らしの中で彩りを添える玉虫塗は、人と同じような存在感がある。光のあたり方や扱い方で様々な表情を見せる、つややかな漆器。職人の真心が込められた工芸品は温かみを感じられ、いつの間にか家族のように、なくてはならない存在となる。人が暮らすところに、玉虫塗も共に暮らしているのだ。
革新し続ける東北工芸。しかし、使われずにしまっておくものではなく、常に使ってもらえるものを作るという想いは創業以来から変わらない。玉虫塗を通して見えるものは、温かみのある暮らし。安価で手軽な商品を求めがちな現代に、東北工芸は新シリーズへ「伝統工芸の温かみに触れてほしい」という想いを託す。
取材を終えて
取材協力:TOUCH CLASSIC
この記事を書いた人
- 日本大学法学部新聞学科3年
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