思い繋いだ「復興前掛け」
「前掛けが独り歩きしていました」。永勘染工場の専務永野仁輝さん(36)は、はにかんだ表情で言った。同社は仙台市若林区南染師町にある、創業125年の老舗染物工場だ。
東日本大震災直後に製作した「復興チャリティ前掛け」が思わぬ反響を呼んだ。被災地を勇気づけることを目的としたものが、知らぬ間に震災被災者とボランティアをつなぐ役目を果たしていたのだ。嬉しい誤算だった。
紺や深緑色の地色に、白で染め抜かれた大文字がひときわ目立つ。「東北復興」「宮城復活」「いぎなりがんばっぺ宮城」などの、被災地を鼓舞するメッセージ。酒屋の店員が腰に巻くような約50センチ四方の大きさで、炊き出しで重宝する実用的なポケットがついている。
前掛けは1枚2500円。女性向けの腰からまくエプロンは1枚2000円。震災直後から計1200枚ほど売り上げ、約37万円を被災地に寄付した。
「やる気のないやつはやめてくれ」。2011年3月21日、社長の永野仁さん(64)は社員を工場に集め、言い放った。経済の混乱、受注の大幅減少、老舗の存続危機。未曾有の震災が発生し、会社の未来に様々な不安がよぎった。仁さんが社員に配った文書には、こう書かれていた。
▲店舗前に復興前掛けをつけてならぶ永野仁さん(左)、と仁輝さん=仙台市若林区南染師町
「十年二十年かかろうと復興し立ち直って行く事が、生き残った私達の使命と考えます」。覚悟はできていた。
震災発生時、工場は幸い目立った被害を受けなかった。だからこそ、被害が大きかった地域の役に立てないか。集まった仁さん、社員らは頭をひねった。そこで、限られた在庫から製作できるアイディアが生まれた。
「チャリティの復興前掛けをつくろう」
まずは地元飲食店販売を開始。お店で前掛けをみた人を勇気づけ、そこから元気の輪を広げようと思ったからだ。インターネットを通して全国から受注した。実際に「見て元気をもらった」と感謝する人もいた。
特に、本来販売のターゲットではなかった被災地のボランティアから大好評だった。復興前掛けを付けて炊き出しに行くと、被災者とのコミュニケーションが取りやすいと言うのだ。背景には、被災地以外からボランティアに駆け付けた人の目的が、被災者に伝わりにくいことがあった。メッセージ性と強いインパクトが、ボランティアの人の、被災地への想いを代弁してくれたのだ。
「利益ばかり考えてものづくりをしたときは、売れない。無欲で人の役に立とうとすると思わぬ結果がついてくる」と仁輝さんは笑う。震災直後に感じた経済状況の不安をよそに、昨年、一昨年は忙しい日々だったそうだ。ひとつひとつ、お客さんのために大切に作り上げる。創業以来の理念が、「前掛け」という道具となって人をつなげていった。
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