記者(個人)

他のずんだはづんだじゃない

ボハーチダービッド ボハーチダービッド
127 views 2014.02.28

枝豆をつぶしすぎないプチプチした食感が際立ち、餅の歯切れが絶妙。137年も味が変わらないづんだ餅の専門店、村上屋餅店だ。

商品は手作りで、すべて店主の村上康雄さん(59)が一人で作る。手を触ると太くて硬く、まさに職人の手だ。
 

▲伝統の味を守りながら新商品も作る村上康雄さん

普通は「ずんだ」と書くが、ここは昔から「づんだ」だ。材料は枝豆、砂糖、塩、水だけ。もち米は宮城の農家から仕入れるミヤコガネ。仙台の枝豆は味が薄く、づんだ作りにはあまり向いていないため、より美味しい新潟県や千葉県産のものを注文する。づんだを作る際は、手で一つずつ薄皮をむく。大変だがおじいさんから習った製法を守り続ける。
 
「こどもの時からここのづんだを食べている。悪いけど他のずんだはづんだじゃない」と76歳の常連客が微笑みながら語る。

「かき氷のずんだミルクは仙台で俺が初めて作った」と村上さんは伝統の味を守りながら、若者に人気がある新商品の開発にも力を入れる。酸っぱくて甘いトマト味の餅なども人気がある。

店が一番町から現在の北目町に引っ越したのは約30年前。駅から離れ、交通の便もあまり良くないが、それでもカップルや高校生、有名人がよく訪れ、10分と客がとぎれない。
 
震災が起きた翌々日から、店の前に長蛇の列ができた。村上さんは伝統的なづんだ餅で、人の心を癒やし続けていた。栄養価の高い餅を石巻に届けた人も数多くいた。「あの時はありがとう」と感謝の気持ちを伝えに来るお客さんの姿に触れるたびに思い出す。

娘二人に恵まれたが、家業には興味を示さない。だからといって137年間で完成してきた技術を他人に教える気もない。

「俺が死んだら終わりだよ。だから生きてるうちに食べてください」。苦笑を浮かべて、村上さんが言った。

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東北大学博士2年