130年続く 千代の味
「ネットリ絡みつく甘さが口の中に静かに広がる」。コシが強く、歯切れの良い餅の上に鮮やかな緑で彩られた餡で包まれたづんだ餅を初めて口にした感想だ。
餡のとろみが歯間を塞ぎ、「枝豆」と「お米」のコラボの不思議な甘さが口の中で持続する。店には老若男女ひっきりなしに訪れる。曾祖母の時代から通いつめるという76歳のお客さんは「村上屋のづんだは疲れが取れる。他のづんだは食べれない」と話す。
「誰にも真似できませんよ」と主人が鼻が高くして話すのも無理はない。「餅は餅屋」と言わんばかりに、37年間、餅を練り続けた太い指と分厚い手の平がその自信を物語る。
村上屋餅店は創業1877年、3代目の直蔵が新伝馬町で米と餅を商ったことから始まり、仙台藩伊達家の御用菓子司として菓子作りを初代村上孫左衛門が担ったことをルーツに持つ。創業以来137年、代々続く製法を今は7代目の今井康雄社長(59)が守る。
▲「づんだ餅へのこだわり」を語る今井社長=仙台市青葉区の「村上屋餅店」
村上屋が扱う材料はこだわり抜かれたものばかり。餅は無洗米の「みやこがね」、づんだは新潟や千葉の特定農家で栽培された枝豆で作られる。また水はアルカリイオン水を採用する。さらに、伝統を守る一方、時代の流れに合わせた「イチゴミルク」や「トマト餅」といった新商品の開発にも余念がない。
頑固で職人気質な主人だが、お客さんへの感謝も忘れない。東日本大震災で街は食糧や物資が滞る一方、村上屋餅店はたった2日で再開した。「こんなときこそ、あんこが食べたい」こんな思いを持った被災者に期待を答えるべく、残った在庫で餅を練った。「家庭は後回し。材料があったんだからやらない理由はなかった」と当時を振り返る。
こんな歴史長く、地域からも全国からも愛される「村上屋餅店」だが、先は長くない。「後継がいないから、俺が死んだら終わり。俺が生きている間に食べに来て」
ホッと一息つきたい時に、歴史を感じさせるコク深い餅を起源の場所でご賞味あれ。