最先端の画像技術で東北を引っ張る「バイスリープロジェクツ株式会社」
日本は高度成長期も終わりましたし、私個人の感覚ですが、今現在、日本で物づくりが盛んだとは思えません。それにAIに仕事が奪われるなんて話もよく聞くことから、第2次産業と人手不足がそこまで関係しているとは思っていませんでした。
ここ仙台には第2次産業の人手不足を支えるため、アメリカの会社と手を結んで、最先端の画像技術を使った「外観検査技術」を開発している企業があります。東北を引っ張るソフトウェア開発企業に取材に行ってきました!
バイスリープロジェクツってこんな会社
移転したばかりの事務所は、仙台駅前東口から車で15分ほどの卸町東にあります。卸町東は工業団地と呼ばれており、周りには同じ系統のメーカー企業が多く並んでいました。社内は引っ越ししたてということもあって綺麗でした。
バイスリープロジェクツは、基本的にソフトウェア(コンピューターを動かすプログラム)を作っていて、ソフトウェア業・製造業に当たります。具体的には、工場で使う測定機器・検査機器上のソフトウェアの製造・開発を行っています。
中でも、主力のソフトウェアは、画像技術を使った「外観検査装置」です。自動車の塗装やエンブレム、何万個もある部品の検査(=外観検査)をよりスムーズに行うため、この装置を使って外観検査の自動化技術や、検査の負担を減らす技術を提供しています。この技術にはAIが活用されており、顧客から注文された規格に沿って精度を上げ続けています。
AIを使った画像技術は、ここ2~3年で劇的に進歩しており、それに伴って市場も拡大を続けています。ですが、まだまだ発展途上です。このような状況の中、AIに学習させたデータ、つまりAIを使った画像技術は、企業にとって大きな財産になっています。
今回は、バイスリープロジェクツの代表取締役社長、菅野直(かんの・すなお)さんにお話を伺ってきました。
社員は全員で31名、若手からベテランまで活躍しているそうです。女性も、事務職が4名、エンジニアが1名います。
日本に誇る外観検査技術
外観検査技術開発の背景には技術開発のニーズがありました。それまで外観検査は人の目と人の手によって行われており、多額の人件費がかかっていました。検査は1回だけ行われるのではなく、何回も行われ、なおかつ日本全体の人手不足もあって、1つの工場の人件費だけで何億円もかかっていたのです。それに、人は検査作業を続けていると、どうしても疲れてきます。その結果、傷を見逃してしまうことも考えられますが、自動化でそのリスクを減らすことができます。
このニーズに着目したバイスリープロジェクツは、技術開発に取り組むことを決意しました。開発は、まず国の中小企業庁が実施している「戦略的基盤技術高度化支援事業」に応募することから始まります。その事業で採択を受けると、補助金がもらえます。そこに自動車メーカーが開発現場を提供してくれることで研究グループが組まれ、本格的な開発は始まりました。
上記の傷を発見する検査技術は現在、特許も取得しています。しかも、最先端の画像技術は大手の自動車メーカー2社で使ってもらっていることから、バイスリープロジェクツの日本に誇る強みと言えます。
東北で唯一のアライアンス取得
菅野さんは会社設立当初、アメリカの計測器・制御メーカーの「ナショナルインスツルメンツ社」がつくった「ラボビュー」というプログラムを使えないかと考えていました。そこへアソシエートメンバーにならないかと話を持ちかけられ、はじめに2年間、アソシエートメンバーになりました。アソシエイトとは「仲間」「共同事業者」と言う意味で、アソシエートメンバーとはその企業との業務パートナーのことです。
アソシエートメンバーから正式メンバーに昇格するためには条件があり、この2年間で失敗すると(クリアできないと)二度と取引ができなくなります。無事、条件をクリアしたバイスリープロジェクツは、こうして上記会社の東北唯一のアライアンスを持つようになり、強みとなる画像検査技術の開発へと繋がっていくのです。
こうした経緯について「東京でできそうなことだけど、仙台でだってできる!地方でできないと悔しい!」という思いがあったと菅野さんは話してくださいました。仙台は東北大学が近くにあって学術的な指導も受けやすく整っている環境があるのだから、そこは活用できるはずと思い立って動き始めたそうです。
今後の課題・将来への展望
現在、バイスリープロジェクツの画像技術を活用しているのは、主に自動車産業です。今後は新市場開拓をしていく必要があると感じており、具体的には携帯電話、めがねのレンズやコンタクトといった製品でも技術が活用できるかもしれません。
学生へのメッセージ
ぜひ地元・仙台に残ってほしいと話されていました。「東京でできることは仙台でもできる」という気概を大切にされていました。
これまで、どうしても文系の私には遠い世界に感じてしまっていたのですが、こうした技術開発がやがて大きく世の中を変えていくのかもしれないと思うと面白い世界だなと思いました。