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犬との幸せな関係を考える「犬とつくれば」

三浦 紗樹 三浦 紗樹
1,207 views 2015.05.22

山田良太さん(30) 一般社団法人 犬とつくれば

大学で動物行動学、人間動物関係学などを勉強し、卒業後、東京の犬のごはん専門店で調理を担当していた山田さん。「食を通して飼い主と犬の仲を深めたい」と、「犬とつくれば」を立ち上げました。犬のファルコンくん(10)と一緒に運営している体験型農園にお邪魔して、作業風景も見学させてもらいました!

犬の食事づくりは畑仕事から

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「犬とつくれば」は、太白区秋保町にある体験型農園「ファルコンのやさい畑」や、不定期に開催している犬のごはん学セミナー、料理教室を運営しています。目指しているのは「食を入り口にして犬への愛情を深め、人と犬とが寄り添った暮らしに貢献すること」。
体験型農園では、犬が食べられない唐辛子やネギ類を除く、約30種類の野菜を育てています。
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ごはん学セミナーや料理教室は、「犬の食事をつくる飼い主を増やしたい」という山田さんの思いから始まりました。
参加者は犬のごはんをつくる際に必要な知識を学び、畑で育てた作物を使って、素材から納豆やずんだなどの伝統食品をつくる体験もできます。知識だけでなく実際に作物を育てる体験を通じて新しい発見をし、「食」への理解を深め、手間と時間をかけて作った野菜を犬の体や嗜好を考えながら選択し、飼い主が調理して、一緒に食べられるようにしているのです。
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現在の会員は仙台市内在住の5名。農園には月一回集まり、畑仕事に精を出しています。飼い犬も連れてきて、作業の合間には一緒に遊んでいるそうです。
取材した日も農場長の犬のファルコンくんは作業をする山田さんの脇で、畑の作物をチェックしていました。
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山田さんは「人間だけでなく、犬も自分が食べるものに関わっていいのでは」と考え、種をまく時は、犬に種を見せ、匂いを嗅がせ、話しかけながら一緒に植えていきます。
今日まいているのはエゴマの種。ファルコンくんも興味津々に種をまく山田さんの手元をじっと見つめます。
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収穫期には、一緒に作業する会員と野菜を分け合っています。
「収穫した物を、自ら調理して犬の食事に取り入れ、その反応を会員が報告してくれる。それが何よりも楽しみ」とやりがいを話してくれました。

親密な関係づくりは「食事」がキーワード

大学のアニマルサイエンス学科で学んだ山田さんは、2010年まで東京の犬のごはん専門店で調理を担当していました。東日本大震災を機に仙台に戻り、犬を保護する施設でのボランティアをするうちに、飼い主と犬とのコミュニケーションや飼育の知識に課題を見つけました。
「犬と人との関係をより親密にするには、食事が大事なのではと考えました」。ドッグフードは、栄養バランスがとれていて、ダイエット用や高齢犬用など種類も豊富ですが、山田さんは「飼い主の手作りの料理」を大切にしています。
「手をかけて用意した食事を口に入れる姿を見ると、犬の体をつくっているという飼い主の意識が強くなります。食事に対する責任感によって、以前にも増して犬をよく見、気持ちに寄り添おうとするようになるのではないでしょうか」。
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2012年から2013年までは飼い犬の健康や食事の楽しみを考え、手作りを求める飼い主からのオーダーを受ける「注文の多い犬の料理店」を立ち上げ、料理を製造・販売していました。
調理しながらも「販売している料理は健康的だけど、お客さんの犬の食事を自分が作ることには、飼い主自身の手があまりかかっていない。関係を親密にするきっかけにはならないのでは」と思ったそうです。「飼い主にも、もっと食事を考えてもらいたい」と考えた山田さん。
「食事に関わっていくためには食材を作るところから始めればいいのではないか」。
2014年3月、「犬とつくれば」を立ち上げ、犬の食事に使う作物を栽培する体験型農園を作りました。

「食事」はコミュニケーション手段

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「食事作りは犬との関係をより良くすることに繋がっていると思います」。2015年からは養蜂も始めました。「ハチミツは少量でエネルギーを補給でき、病気や加齢で食が細くなった犬の食事として最適な食材です」と山田さん。「飼い主が犬の体づくりを考えるきっかけになって、食事の選択肢の一つとして取り入られるようにと考えました」。それに…と、続けます。「栽培・収穫から犬の口に入るまでの食材の流れを直接見られることで安心感もありますしね」。

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山田さんはこれからもより多くの飼い主と一緒に犬の幸せについて考えていきたいと話し、犬の食事を作る際に必要な知識をもっと広めるために、収穫が多いときだけ開催していたごはん学セミナーや料理教室を、定期的に行うことを目指しています。犬の食事を作る時には、人間と同じように、その日の体調や精神状態を考えながら調理することが大切なため、コミュニケーションをとる必要があります。
「野菜には『犬用』も『人間用』もない。季節の変化や犬の反応に応じて、飼い主が『犬の食事』を作ることが、選択肢の一つになればいいですね」
「犬とつくれば」という名前の通り、山田さんは食事を通じて犬との関係を深める活動に力を注いでいきます。

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自分の興味を追求し続けよう!

学生のみなさんは、就職情報サイトを見て、就職先を選んでいると思いますが、世の中にある職業の中に、必ずしも「自分がやりたいこと」があるとは限りません。
「これでいいのか」と疑問に思いながら働くよりも、仕事という枠組みにとらわれず、自分のやりたいことを突き詰めていくほうが面白いと考えています。
私も大学時代からずっと「犬の食事」について突き詰めてきたことが、今に生きています。
みなさんも、夢中で一つのことに取り組んで、自分の興味を追求し続けてください。

野菜を育てるところから「食」について考える山田さんの活動を取材して、手間と時間をかける大切さを再認識しました。私は調理の際、健康的なものを「時短」して作ることばかり意識していました。
「相手をよく見て、考えて作る料理が仲を深める」。それは相手が犬でも人でも同じだと思います。「手をかけて調理する」と「食べる」の間には、コミュニケーションがとられていたんですね。

三浦 紗樹三浦 紗樹山形大学3年(執筆当時)
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