身近な大人に聞いてみた はたらくってどういうこと?
ワタシゴト

好きという思いを大切に、社会とつながることが大事。

小田嶋美咲 小田嶋美咲
493 views 2014.09.22

大河内裕子さん(65歳)
管理栄養士事務所D&Nサポートシステムズ/小瀬菜だいこんエバンジェリスト

「食に関することなら、何でもやります」。おいしいものを食べるのが好きという純粋な気持ちを出発点に、管理栄養士として多岐にわたる活動をされる大河内さん。心の赴く方向へひたむきに、真剣に歩んでいく姿から、仕事へ向き合う姿勢を学びました。

食べることが好き!

高校生の時は考古学に興味を持っていました。しかし両親から、資格が取れないなら学費を払わないと言われ方向転換。「食べるのが好きだから」と短期大学家政科で栄養士の資格を取得します。卒業後は副手として大学に残り、出産と同時に3年で退職します。

子育て中心に生活をしていたある日、栄養士有資格者の再教育事業の話が舞い込みました。研修を受けてみると、学生時代と同じ授業内容なのに「染み込み方がまったく違う」ことに驚きます。世の中に出たことで、知識の受け止め方が変わりました。「化学式」に過ぎなかったものが、「食べ物」に置き換えられたと言います。

末っ子が小学校に入学して、時間に余裕ができたころ、「好きなこと」をしようと、管理栄養士の国家試験を受験、資格を得て活動を再開します。病院や保健施設で働いていると、電卓で栄養計算をしなければならないことに嫌気がさします。そこで当時出たばかりだったパソコンを購入し、栄養管理のパソコンソフトを考案しました。その後、当時まだ珍しかったウェブサイトをつくり確かな栄養と食についての情報を発信し始めました。反響は想像以上で、長野、奈良、沖縄など、全国各地から多数の依頼が寄せられました。

主婦目線から「仕事人」へ

ソフトが多く売れることで講師の依頼も増えたため事業化し、管理栄養士事務所を立ち上げました。従業員は、大河内さんただ一人。しかし活動は、レシピ作成から健康教室や専門学校の講師、料理教室、医院での栄養指導まで多岐にわたりました。これほど多種多様な仕事をしていても、「大変とは思わなかった。困難な仕事を依頼されるのは信頼されている証拠だし、努力をすれば、100%の失敗することはない」。

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でも最初からそんな考え方をしていたわけではありません。事業を始めて間もないころ、個人事業主の先輩から「仕事をしているのだから、主婦目線はやめなさい」。その一言で、心のどこかで「仕事人」としての自覚を欠いていたのだと気づかされます。
「そのときなんと返事したのかは思い出せないけれど、言われた言葉だけはいまだに心に残っています」。そこから、中途半端な姿勢を見直し「仕事人」として、引き受けた仕事に最大限の努力をする姿勢が生まれていったそうです。

社会とのつながり

「社会とつながる」ということが、仕事をするうえで重要だと語ります。異業種の方との交流が思わぬ縁となり、仕事がやってくる。しかし「黙っていたらすぐに仕事はなくなる」。それゆえ常に人とのつながりを大切にする必要があると言います。

そんな縁のもとで、大河内さんは偶然「小瀬菜だいこん」という、宮城県加美町の小瀬屋敷地区だけで栽培される地野菜に出合います。広く販売されることのない地野菜は、放っておくと絶滅してしまう恐れがあります。「こんなにおいしいものがなくなるのは惜しい」という思いで、「小瀬菜だいこんエバンジェリスト」として保存・普及のための活動をしています。

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小瀬菜だいこん

エバンジェリストとは、元の意味はキリスト教の言葉。「キリストの言葉(良き訪れ=福音)を述べ伝える人」という意味で「福音伝道者」と訳されるそうです。「そこから、ひいては小瀬菜だいこんなどの地野菜の素晴らしさを福音として述べ伝える役目をしたいと思い自称しました」と由来を教えてくれました。

すべての活動は「おいしいものをいつまでも食べ続けられる社会をつくりたい」という純粋な思いを原動力にしています。「好きなことだから邁進できる」。与えられた仕事に対して、努力を惜しまずまっすぐに向き合う、「仕事人」としての責任と覚悟を、大河内さんは胸に秘めています。

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必ずしも自分のしたい仕事ができるとは限りませんが、世の中に必要とされているという点で、仕事として等価です。一生懸命に最善を尽くせば、必ずいつか役に立ちます。30年やって向いてないな、と思うことはあるかもしれないけれど、数カ月や数年ではその仕事がなんであるかまだ分からないはずです。自分の仕事を、社会に対して見せていくことで自分の世の中での立ち位置が定まり、存在意義を得ることになります。一歩一歩を踏み出すことが自分の立場をつくります。そのことは仕事だけでなく、生きることにも通じてくるのです。

この記事を書いた人

小田嶋美咲
小田嶋美咲
東北大学3年(執筆当時)