思い出を形に アルバムでつなぐ未来
「大切な思い出を形にする仕事に、使命感を感じています」。斎藤コロタイプ印刷(仙台市青葉区一番町)の生産担当部長、菅野幸久さん(49)は語る。東北で唯一卒業アルバムの印刷を専門に行い、宮城県における卒業アルバムのシェアの約6割を占める。
例年は、3月半ばに卒業アルバムを製作し終え、全国へと配送していた。あの年、すべてのアルバム製作が終わりかけたころ、東日本大震災が発生した。幸い機械類に大きな被害はなかったが、電気、水が確保できず製作を中断せざるを得なかった。
完成した分のアルバムを配送しようにも、交通網は遮断され、ガソリンもなかなか手に入らない。倉庫には多くのアルバムが出荷を待っていた。社員の家族の安否もわからない切迫した状況下でも、「何とか卒業式に間に合わせたい」という思いがあった。
▲自分たちが手掛けたアルバムに囲まれ、震災時に届いた礼状を読み返す菅野さん
苦労の末、震災から3日後に3台のトラックを確保することに成功した。札幌や東京、関西などの遠方には、チャーターしたトラックでアルバムを輸送し、近隣の学校には社員自ら配送を行った。その結果、ほとんどの学校の卒業式に間に合わせることができた。
同社は、町の写真館などの委託を受けて卒業アルバムを作成する。学校とは直接の関わりを持たないため、震災前までは学校関係者や子どもたちの声を直接聞くことは少なかった。
「アルバムがとどいて本当にうれしかったです」「一生の宝物にします」。震災後の同社の懸命な行動に感謝する数々の礼状を見て、「自分たちは世の中に必要とされていると感じました」。菅野さんは卒業アルバムの使命を再確認したという。
アルバムは、思い出を形にする。「10年、20年後、持ち主がどんな気持ちで卒業アルバムを見るのか想像すると、自分の仕事は大切な役割を担っていると気持ちが奮い立つ」
卒業アルバムを開くと、あの頃の「五感」がよみがえる。春の柔らかな日差し、夏に鳴くセミの声、秋のキンモクセイの香り、冬のひんやりした空気。そこには何年経っても変わらない笑顔がある。
部屋の奥に眠っている卒業アルバムを見返してみると、懐かしい仲間たちと出会えるかもしれない。