思いを染める
「何かできないか。」その思いは前掛けによって被災地に届けられた。仙台市若林区南染師町の永勘染工場では復興チャリティーとして前掛けを販売。売上の一部は被災地へ寄付している。前掛けには“宮城復活”“仙台復興”“いぎなりがんばっぺ宮城”の文字。
震災から約10日後、従業員全員を招集。「やる気のないやつはこの場でやめてくれ」と代表取締役永野仁さん(64)は発破をかけた。
▲熱い思いを語る永野仁社長=8月23日、仙台市若林区南染町の永勘染工場
その言葉で従業員の意識が高まった。自分たちには何ができるのか、を話し合うようになったという。被災者を手助けすることは、「生き残った私たちの使命である」という気持ちを抱えて。物流システムが整わない中、手持ちの材料で被災地に元気を与えられるもの。染料はある。生地もある。そこで前掛けを思いついた。
初めは国分町の飲食店をターゲットに前掛けの販売。飲食店が元気になれば復興につながると考えたからだ。
しかし前掛けは予想とは異なった動きを見せた。炊き出しボランティアをする人々がこの前掛けを締めて活動を始めた。「いい前掛けをしているね」と被災者からの笑顔。そしてボランティアと被災者のコミュニケーションの糸口となった。
ボランティアの気持ちが伝わる。そのメッセージが被災者の心を元気づける。前掛けがボランティアと被災者をつないでくれた。「想像していないところで商品が独り歩きをしてくれた」と専務取締役の永野仁輝さん(36)。こんなに反響が大きくなるとは思っていなかったそうだ。小さな染工場を知ってもらうきっかけとなり全国的に顧客が広がった。
創業125年の伝統を守ってきたのは常にお客さんから必要とされる店であったから。お客さんの要望を最優先にし、お客さんとのやりとりを大切にしてきた。「満足してもらえる商品をつくること」。125年間変わらない思いがあった。「少しでもお客さんのためになれば」と仁輝さん。これからも永勘は思いを布に染めていく。