学生記者がお仕事の魅力を発見!仙台イケてる会社訪問
イケ社

「できない」なんて、言いません。「株式会社ティー・ディー・シー」

髙橋 冬馬 髙橋冬馬
421 views 2021.11.04
髙橋 冬馬 髙橋 冬馬 東北大学
中小企業はその可能性に高い関心が寄せられています。経済産業省では、「グローバル・ニッチトップ(GNT)企業」として、優れた技術力で世界のニッチ市場を先導する製造業を2度にわたって選出してきました。「誰も取り組まないことを、誰にも追いつけない水準にまで高める」中小企業には、どんな魅力が隠れているのでしょうか。わたしは 中小企業の研究をしているのですが、今回は自分の研究のためにもと思い取材を希望しました。

ティー・ディー・シーってこんな会社

もとは鋳造業(ちゅうぞうぎょう)という背景を持つTDC。現在は65名の従業員を抱え、宮城を中心に東京、大阪、ドイツに営業拠点を構えています。従業員不足と高齢化が中小企業に共通する課題と言われますが、TDCではなんと、平均年齢34歳!幅広い年齢層の方々が一丸となって事業に取り組んでいます。

TDCでは、主に精密加工を手掛けています。業界最先端の研磨加工技術を中心に国内外の企業、研究機関、大学と取引し、最近は火星の衛星開発にもかかわっているとか!?「『Made in MIYAGI』を世界ブランドに」という目標も掲げ、最先端の技術を武器に活躍する姿は、地元宮城県の産業振興にも大きく貢献しています。2013年度「グローバルニッチトップ企業100選」に選ばれただけでなく、2021年度には、宮城県の産業発展、地域経済活性化への貢献が顕著な企業、団体及び個人を選ぶ「富県宮城」グランプリにも選出されました。その華々しさの陰には、どんな秘密が隠されているのでしょうか。

今回はオンラインで、社長にお話を聞きました!

仙台の企業魅力

ナノスケールの超精密研磨加工技術


 TDCの最大の強みは、他の追随を許さない高い技術力。研磨加工に関する精密さは、1桁違うだけで他社との競争が左右されてしまうほどだそうです。そのような技術力の高さについて注目すべきことは、なんと「精密すぎて逆にニーズが多くない」ということ。 決して誰にも必要とされていないことをしているのではなく、誰もできるなんて思いつかない次元に到達しているということなのです。

これは2つの面でメリットがあります。
1つは、ニーズが少ない=市場規模が小さいということは、スケールが大きくニーズが多い市場でないと投資できない大企業、技術力を高められない他の中小企業が参入することを防ぐことができるということ。
2つ目は、ニーズを持っているのは最先端のプロジェクトに携わる研究機関や企業であり、先見性をさらに養えるだけでなく、将来的にその技術を必要とする潜在的な顧客がまだまだいるということ。誰にも追いつけない技術力を身に付けることは、 その企業の魅力になるだけでなく、中小企業がとるべき生存戦略の一つでもあるのです。

モットーは「できないといわない」

 「優れた企業は経営理念から違う」と聞いたことがありますが、TDCもその一つ。なかでも象徴的なものに、「できないといわない」がありました。

 TDCでは他社がやりたがらない「面倒くさい、難しい」ことにチャレンジすることを重んじてきたそうです。「そもそもどうしたらいいの?」という段階の悩みを抱える顧客にも応えることで、それが技術にもなり、顧客との信頼関係や業界の最先端という現状につながっています。しかしそれは、初めから将来性を見据えたものではなかったとか。


▲会社説明をしていただきました!

中小企業において、自分たちのできることが他と同じレベルでは、仕事が回ってくるはずがない。だからこそ他社が受けないような難しい依頼にも挑戦して、乗り越えてきました。「できないといわない」とは、いわば必要性から生まれた企業理念なのです。

企業を支える、社長の経営観

 業界最先端を行く高い技術力とそれを実現する企業理念をもつTDC。3つ目の魅力は、その根底に流れる社長の経営観です。

 「従業員とのコミュニケーションでは、自身の足りない点を開示して、できないことを補い合うことを大切にしている」という社長。そんな姿勢を持つようになった転機は、先代から経営のバトンを渡されたときでした。先代社長から会社を受け継ぐうえで、自分はどんな経営者でいるのか?ということで、悩まれたそうです。

もともと別の会社に勤めていたこともあって、先代のように、機械の調子や従業員の生活といった深いことまで把握し、1人でまとめることはできない。コーチングなども試み、導き出した答えが「できないことを受け入れ、また開示して、従業員の力を借りること」なのです。この規模では珍しいことに、工場長を8人も設けて情報共有の仕組みを新しくしているそうですが、従業員に助けてもらうことは彼らの主体性を育てることにもつながり、良い結果につながったとおっしゃっていました。
従業員との対話を積み重ねながらチーム一丸で業界最先端を行く姿に、人の暖かみが技術に込められているようで素敵だと感じました!

学生へのメッセージ

 海外への販売拡大、新技術の事業化、この2つを長期的課題と据えているTDC。赤羽社長に学生へのメッセージを尋ねました。

 「弱点だと思っていたことが強みになりうるし、挫折した経験があとから振り返ると『あのおかげで変われたな』と思えることがあります。いいことも悪いことも人生。『なんでこんなこと、しなきゃいけないの?』と思うことがたくさんあるけれど、遠回りに思えるようなことが必要だったりするので、短期的に捉えず頑張ってください。」

 また、「できないといわない」をモットーに掲げているので、「諦めそうなときにどうして諦めないでいられたのですか?」と尋ねたところ、答えをもらいました。1つはチームの存在。補ってくれたり支えてくれたりする人がいるから諦めずにいられる。また、うまくいかない悔しさも忘れないこと。今うまくいかなくても数年後に再挑戦して成功した、なんてことも人生には起こる。だから壁にぶつかったときには、悔しさを忘れずにいつつ、いったん置いておくことも大切。
……そのような、力が出るメッセージをいただきました。

 高い技術力の背景って何だろう、マネジメントの仕組みが違うのかな?と当初はそんな疑問があったのですが、その答えは仕事への向き合い方、人としての考え方にありました。 取材では、「できないといわない」をモットーに掲げる一方で「できないことを素直に開示し、チームで互いの足りない部分を補い合う」従業員との向き合い方を意識している、という話が最も印象的でした。自分のできないことを開示するって難しいんじゃ?と思ったのですが、社長はあっけらかんとした様子で話されていて、その姿に驚いたからです。
ですが話を聞いていくうちに、社長として会社を支えていくことの前には四の五の言ってられないんだな、と気づかされました。私たち学生も、将来のなりたい姿や目の前のすべきことについて日々考えていると思いますが 、そこで問題なのが自分の内面です。すべきなのにやりたくない、変われるのに一歩踏み出せない……。TDCが今の姿を実現したのだから、自分にも変われるんじゃないか?そんな勇気をもらえる取材でした。

髙橋 冬馬髙橋 冬馬東北大学
文:髙橋冬馬 東北大学
写真:寺尾まりえ いぐする仙台編集室
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この記事を書いた人

髙橋 冬馬
髙橋 冬馬
大学院にて、中小企業の人事労務を専攻しています。