記者(個人)

忘れかけていた心

徳田博明 徳田博明
33 views 2014.03.03

震災後、紺や緑の生地に「いぎなりがんばっぺ宮城」や「東北復興」、「仙台復興」の白文字が染め上げられた、50・四方の前掛けをつけた炊き出しボランティアの姿があった。永勘染工場(仙台市若林区南染師町)の染職人たちが作った復興支援チャリティー前掛けだ。1枚2500円で販売し、売り上げの一部は宮城県を通して被災地に寄付される。

地域で「永勘さん」と親しまれる同社は店舗用染め暖簾を主力として手掛ける125年の歴史を持つ老舗染工場である。震災直後、職人と工場の無事を確認した永野仁代表取締役(64)は職人たちと緊急会議を開いた。職人達は被災者に何ができるか考えた。工場は稼働できる、少ないが生地も染料もある。すぐに手掛ける事ができるのがこの前掛けだった。

▲前掛けをしている永野仁代表取締役(左)と永野仁輝専務取締役(右)=仙台市若林区

職人達が丁寧に作った前掛けは3月下旬に完成した。前掛けに目をつけたボランティアが購入し、炊き出しにつけて行った。被災者がそれを見て、「それを見てると、元気になれるね」と会話の糸口になった。震災時の救援物資のお返しに前掛けを送りたいという被災者の声もある。そのようにして前掛けは少しでも東北の力になりたいという思いのボランティアと想像できない程の苦しみを背負った被災者をつなぐ架け橋となったのだ。

「前掛けが思わぬいい方向に独り歩きしていった」と永野仁輝専務取締役(36)は嬉しそうに話した。主に5種類、約1200枚を売り上げ、約37万円を被災地に寄付している。

永野社長は「震災は日本人が忘れかけていた人を思いやる心を思い出させるきっかけとなった」と熱く話す。前掛けも、ボランティアと被災者の会話も、物資のお返しに送ることも人を思いやる気持ちから生まれたものだ。

人を思いやる気持ちを大切にしてほしい。忘れないでほしい。あの前掛けは訴えかけながら独り歩きしたのかもしれない―。

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徳田博明
徳田博明
広島大学4年
広島大学
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